労働審判を活用して 弁護士/中村 直美

 Sさんは作業用繊維雑貨を販売する会社に勤めていました。店長補助として入社し、入社5年目で店長代理となり、従業員のマネージメントや顧客管理などを任されていました。
 入社してから、ほとんど有給休暇を取得したことなかったSさんは、社長に対して、「有給休暇の制度を明らかにして欲しい」「自分の有給休暇の残日数を教えてほしい」などと申し入れましたが、十分な説明は得られませんでした。
 さらに、他の社員が慣行通り賞与支給を受けていたにもかかわらず、会社側は経営の悪化を理由に、平成20年1月および同年8月の賞与をSさんには支給しませんでした。
 Sさんは、このような差別的取扱いにより精神的苦痛を被り、円形脱毛症を発症してしまいました。仕事を続けることができなくなったSさんは、やむなく会社を退職することになりました。会社は退職者に対しては給与の1か月分程度の退職金を支給していましたが、Sさんに対して退職金の支払いはありませんでした。
 このような経緯から、Sさんは労働基準局にあっせんを申し立てました。しかし、会社は経営悪化を理由に支払いを拒絶し、あっせんは不調に終わりました。
 そこで次に、Sさんは労働審判を申立て、賞与と退職金の支払を求めるとともに、Sさんを差別的に扱った会社に対し不法行為に基づく慰謝料を請求したのです。
 労働審判は、個別労働事件について早期に解決が見込まれる制度です。Sさんについては、第1回目の期日で当事者双方の言い分が主張され、『有給休暇取得の妨害はあったのか』『賞与や退職金の不支給は差別的取扱いにあたるか』について問題となりました。
 労働審判では、裁判官とともに、労働関係に関する専門的な知識・経験を有する委員が事件を審理します。Sさんの審判においても、労働者側・使用者側の各委員から、Sさんと相手方会社社長に対して、鋭い事情説明が求められました。
 そして、Sさんの事情、会社側の事情を踏まえ、2回目の期日において、請求額には満たないものの、会社がSさんに対して相当の金額を解決金として支払うことで、調停が成立しました。
 労働審判申立から解決までは、約3か月という短期間でした。
 Sさんは再就職をして、新しい仕事に意欲的に取り組んでいます。


(2009年4月)

戻る

home