胸部以下全身麻痺の交通事故、高裁で逆転勝訴 弁護士/岩佐 英夫

 Aさんは2003年春、国道工事による地下水への影響調査のために設置された観測孔の蓋が外れる状態で放置されていた農道をスクーターで走行して転倒、胸から下全身麻痺の重傷を負いました。Aさんは家族とともに、国・ゼネコン・自治体を被告として提訴しました。しかし、京都地裁は、観測孔の維持・管理の欠陥は認めたものの、観測孔が原因で転倒したかどうかは「不明」として請求を棄却しました。Aさんが事故発生の瞬間の記憶を全く喪失したままという困難さを棄却の口実のひとつにしています。弁護団がようやく探し出した目撃者(四次下請の現場労働者でAさんが空中を飛ぶ姿を目撃)の重要証言を「記憶があいまい」、同じ現場で同様の事故にあった人の証言も「元同僚だから」と、いずれも信用できないとして冷たく切り捨てました。
 高裁では、豊富な鑑定経験を有する林技術士に意見書作成をお願いしました。林さんは、つくば市の事務所での弁護団との2回にわたる打合せと京都での2回にわたる現地調査、スクーター・ヘルメット・着衣等の証拠の徹底的分析、現場での走行実験もふまえ、地裁判決や被告らが指摘する論点に専門家の立場から徹底的に反論してくださいました。大阪高裁は、国・自治体の責任は否定したものの、証人の心理や記憶構造にも踏み込んで誠実な事実認定を尽くして因果関係を肯定し、ほぼ請求通りの損害賠償をゼネコンに命じ、配偶者や子供の独自の慰謝料も認めました。また、この事件では労災保険のありがたさを痛感しました。7年半近くの裁判を続けられたのは、労災保険があったればこそです。


(2010年11月)

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