税金裁判 弁護士/岩佐 英夫

納税者の権利を発展させることは、日本の民主主義の基本問題のひとつ

 税金問題は「行政訴訟」の中でも、いわゆる市民ウォッチャー事件などにくらべて「勝訴率」は決して高くない(というより極めて低い)のが日本の裁判所の現実です。
 しかし、私は弁護士生活を通じて一貫して税金裁判に関わってきました。税金を誰からどのように公平に集めるか、集めた税金を誰のためにどのように使うか、これこそが政治の根幹であり、いま憲法9条と並んで改憲勢力の攻撃の的となっている憲法25条の実質を実現する重要なたたかいであり、納税者の権利を発展させることは日本の民主主義の基本問題のひとつだと思うからです。


一歩前進・二歩後退

 こうした困難な闘いの中で「北村事件」の勝利は画期的な意義をもつものでした。これは北村さんの留守中に無断で2階にまで上がり込み、タンスの中の女性用下着までかきまわすといった違法な「調査」を人権侵害として、一貫して謝罪を要求しつづけた北村さんに対して、課税当局は「調査拒否」として青色申告承認を取り消し、莫大な金額の推計課税をした事案です。北村さんは国家賠償訴訟を起こし地裁、高裁とも勝利判決を獲得し、任意調査における「承諾の原則」を確立しました。これを受けて、青色申告承認取消処分の取消訴訟では、京都地裁は謝罪要求の正当性を事実上認め全面勝利の判決を言い渡しました。同判決は、「違法調査が再度なされないようにするために第三者の立会を要求し、調査の様子を撮影・録音することにやむをえない面がある」として立会・写真撮影・録音の正当性を正面から認めた点で歴史に残る画期的な判断を示しています。こうしたすばらしい勝利を引き出した要因は、北村さん自身の不屈の闘志、これを支えた家族・従業員、そして民商や税理士さん、国民救援会など支援の人々や弁護団の団結です。

同時に、やはり事実の重みをいかに裁判所に伝えるかが決定的な鍵

 北村事件では現場での打合せを17回も行い、繰り返し違法行為の内容を確認し、怒りを新たにしました。
 うどん製造業の加藤さん(元伏見民商会長、のち京商連会長)の事件では、「推計の合理性」をめぐって、小麦粉1袋から「うどん玉」が何個取れるかが争点でした。現実の商売ではサービスとして表示重量よりも1割くらいは多めに盛っている事実を立証するために、京商連をあげて府下全域のスーパーなどからも「うどん玉」を購入して重量測定した結果を裁判所に提出し、大阪高等裁判所で見事逆転勝利を獲得しました。
 城陽・久御山民商の藤村さんのレーシングカー事件は、サーキット走行専用のレーシングカーが物品税法別表の「普通乗用自動車」に該当するか否かという、租税法律主義に関する典型的な事件です。「公道走行禁止」のレーシングカーをトラックで裁判所の庭に運び込み、一流レーサーに解説をしてもらい、裁判官に強烈な印象を与えたことが地裁での全面的な勝訴となりました。しかし、高裁では残念ながら逆転敗訴となりました。最高裁判所では5人の裁判官のうち2人が高裁判決を批判する意見を書いてくれましたが、惜敗しました。
 城陽・久御山民商の秋元さん、伏見民商の藤本さんの事件では、京商連が開発し税務調査官もその優秀さを認めたグリーン・シートとコンピューターを駆使して実額を争いましたが、裁判所は重箱の隅をつつくようなわずかなミスで全体が信用できないと切り捨てました。
 八幡民商の中妻さんの事件では、統計学の先生に援助いただき「推計の合理性」を争いましたが、裁判所は認めませんでした。


消費税仕入税額控除否認事件

 伏見民商矢野さん、乙訓向日民商本田さん、伏見民商藤本さんの事件に取り組み、いま山科民商の今西さんの事件の弁護団で取り組んでいます。
 商売をする以上必ず仕入れがあります。現行消費税は「付加価値税」であり、売上げにかかる消費税から仕入れにかかった消費税を控除し二重課税を防止することは本質的な要請です。仕入税額控除をするためには帳簿書類の「保存」が要件とされています。ところが課税当局は、民商の事案では、調査において立会人がいることだけを口実に納税者が帳簿を「提示」していない、すなわち「保存」がないとして仕入税額控除を否認するのです。消費税の課税対象売上限度額が3000万円から1000万円に引き下げられ、課税対象業者が大幅に増大しているもとで仕入税額控除否認の裁判の重要性はますます増大しています。


納税者権利憲章こそ根本解決への道、平和でこそ商売ができる

 ほとんどの事件では第三者の立会人がいるというだけで調査を放棄し、推計課税・青色取消・仕入税額控除を否認するという税務当局の前近代的な対応が原因となっています。
 城陽・久御山民商の大森さんの事件では、当初丸一日かけて実際に調査を実施しておきながら、その後「立会」を要求したことが「調査拒否」にあたるとして青色取消しをしました。
 欧米諸国のように納税者権利憲章を制定することこそ根本解決への道です。
 いま政府は一方で福祉を削減しながら他方で所得税や消費税の大増税を狙っています。これは憲法9条改悪、戦争準備と根底で結びついています。「平和でこそ商売も安心してできる」と声を大にして訴えていきたいと思うこのごろです。
(2006年1月記)

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