京阪バス事件 弁護士/中村 直美

 京阪バスに勤務する運転手のMさんは、平成21年6月、出庫前点呼(出勤して乗務する前にされる点呼)の際に行われた飲酒検査で「酒気帯び」状態であったとされました。飲酒検査に使用されていた検知機は、パンや煙草、口内洗浄剤などにも反応する簡易なものでした。つまり、仮に検知器が反応したとしても、直ちに「飲酒」によるものと断定できるような性能はなかったのです。
 Mさんは、痛風の持病のために普段から酒を控えていました。検知器が反応したのは、検査を受ける数分前にエチケットマウスミント(口臭予防スプレー)を使用しており、検査前に水でうがいをすることなく呼気を検知器に吹きかけていたことなどから、飲酒によるアルコール以外の物質に検知器が反応したものです。
 ところが、会社は「飲酒によるアルコール」に検知器が反応したのかどうかを精査することなく「酒気帯び」であったとして諭旨解雇とし、これに応じなかったMさんを懲戒解雇としたのです。その上、解雇理由をより強固にするために、賞罰委員会直近に飲酒検査報告書等をMさんに不利益な内容に改変していたのです。
 Mさんは、平成21年9月、京都地方裁判所に雇用契約上の地位確認等を求める裁判を提訴し、平成22年12月、裁判官は、被告会社の解雇は解雇権の濫用であり無効という判決を出しました。これに対し、会社は控訴しています。
 確かに、バス運転手が酒気帯び状態で運転業務に就くことは許されるものではありません。会社が乗務前に飲酒検査を行うのは、酒気帯び等の危険な運転を防止するためであり、検査により飲酒以外の理由で検知器が反応したとしても、安全性を確保するために当日の乗務を禁じることはやむを得ない措置と思われます。
 しかし、そのような広い捕捉はあくまで安全性を確保するという目的の下に許容しうるのであって、酒気帯び状態であったかの精査もないままに解雇という重大な不利益を科されることは重きに失するものです。手続の適正が欠如した上、それを隠ぺいするかのように文書の改変が行われた本件において、被告会社の解雇権濫用が認められたことは当然の結果だったと思います。
 Mさんは一日も早くバス運転手に復帰することを願いながら、控訴審を闘っています。


(2011年6月)

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