教員の過労死・過労自殺 弁護士/杉山 潔志

教員の過労死・過労自殺問題への関わり

 テレビや新聞でしばしば過労死・過労自殺の記事を目にするようになりました。これらの記事の相当部分が教員の事案です。私は、これまで教員の権利に関する事件や相談を担当してきたことから、教員の過労死・過労自殺の問題にかかわるようになりました。20年ほど前は、行政の教育への介入問題や教育実践にからむ処分事案などが多かったのですが、最近では、過労死の問題が中心となり、事件の様変わりを感じます。
 これまでに取り組んできた事件は6件で、その内訳は、小学校教諭の過労死事件3件(急性心不全の事案、脳出血(もやもや病)の事案、脳出血(クッシング病・高血圧・糖尿病)の事案)、中学校教諭の過労疾病事件2件(解離性大動脈瘤の事案、脳出血の事案)、中学校校長の過労自殺事件1件で、事案の内容は多岐にわたっています。


教員の過労死・過労自殺が増大している原因

 教員の過労死・過労自殺の増大には原因があります。その1つは、教育労働の性格に起因するものです。教員の職務は、児童・生徒を対象とする気配り労働であり、授業や学校行事の職務は、一定の時期までに一定の成果を求められます。しかも、児童・生徒だけでなく、その保護者、同僚の教職員、管理職など複雑な人間関係の中で職務を行わなければなりません。児童・生徒に対する生活指導も職務に含まれていますので、勤務時間外でも指導や相談などを余儀なくされることが多いのです。このようなノルマのある気配りは、うまくいかないときは、消耗感が大きくなるという特徴があります。
 2番目は、社会の矛盾が教育に反映してきている点です。家庭の教育力の低下や競争的教育環境などの矛盾が教育現場に反映し、いじめ、不登校、教師に対する反抗や非行、学級崩壊などとなってあらわれています。教員は、通常の授業や教材研究・授業準備、校務分掌上の職務に加えて、これらの事態への対応が求められます。しかし、その解決は容易ではなく、精神的・肉体的な疲労の蓄積がもたらされることになります。
 3番目の要因として、制度的なものがあげられます。教員の労働は勤務時間の途中に休憩が置かれない運用となっています。小学校では担当する授業時数が多いため、勤務時間だけでは授業準備ができません。これに加えて校務分掌上の職務や各種の会議、プリントや作文の添削なども行わなければならず、必然的に時間外勤務、持ち帰り仕事を余儀なくされます。中学校の場合は、生活指導や進路指導が教員の職務の多忙化の原因になっています。
 4番目の原因として、教員に対する管理強化で、週案などの報告・提出文書や官製研修の増大が上げられます。文書作成などの職務が多くなりすぎて、授業準備などの時間を圧迫しています。
 このような原因が複雑に絡み合って、教員の多忙化、疲労の蓄積が進んでおり、教員の過労死事案が増えているのです。


荻野過労死事件の大阪高等裁判所判決

 荻野過労死事件は、宇治市内の小学校で6年生の学級を担任していた荻野恵子先生が学級崩壊寸前の状態での学級経営や問題行動を行う児童や学習遅滞児への対応を行う中で、1994年1月に脳出血で倒れ(42歳)、翌年、死亡したという事件です。
 倒れた後、公務災害認定請求を行いましたが、地方公務員災害補償基金京都府支部は公務外の災害と認定、審査請求でも再審査請求でも結論は変わりませんでした。取消しを求めて京都地方裁判所に提訴しましたが訴えは認められませんでした。そして、控訴審の大阪高等裁判所が、2004年9月16日、やっと荻野先生の死を公務災害と認めたのでした。
 判決は、担任のクラスが学級崩壊寸前であったことなどを認め、荻野先生の自宅での仕事を教育に対する積極的な姿勢があらわれたものと評価し、時間外勤務の時間数も推定し、荻野先生が過重な職務にあったことを認定しました。そして、冬休み期間中も自宅や実家での職務と家事労働への従事により蓄積した疲労が回復しなかったと認定し、被災が公務に起因したものと判断したのです。この判決は、上記以外にも公務過重性の判断基準やもやもや病との関係など素晴らしい内容の判決です。
 10年以上にわたる粘り強い取り組みが逆転勝訴判決となって結実したとき、弁護士としてかかわることができて喜びもひとしおでした。

お役立ちリンク

大阪過労死問題連絡会
http://homepage2.nifty.com/karousirenrakukai/

大阪労災職業病対策連絡会
http://hccweb5.bai.ne.jp/osakasyokutairen/

(2006年1月記)

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