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別稿(2) 戦争立法の背景・アーミテージ報告について
〜特にアーミテージ第3次報告の「日本に対する勧告」との関係〜

一 はじめに

  1.  安倍首相が、国会に上程し、国民に説明をする前に、先ず"アメリカ詣"を行い、「夏までに戦争立法を成立させる」旨約束したことが、国会・国民主権の軽視として大きな怒りを呼んでいる。こうした卑屈なアメリカ従属、戦争立法をめぐる安倍政権の動きの背景を理解する重要な資料のひとつとして、アメリカの"知日家"グループが3次にわたって発表したアーミテージ報告がある。

  2.  「アーミテージ報告」は、米国の「戦略国際研究所」(CSIS:Center for Strategic & International Studies)が発表した報告であるが、著者の1人であるリチャード・L・アーミテージ(ブッシュ第一次政権の副国務長官)が著名であることから「アーミテージ報告」と呼ばれる。アーミテージは、"boots on the ground!"と、イラクに自衛隊地上部隊の派遣を日本に要求した人物である。

  3.  同報告は共和党・民主党両党にまたがる「超党派」の政策研究集団の報告書であり、いわば米国支配層の意向を表明しているとみるべきであろう。CSISは1962年に設立され、現在約220名の常勤スタッフを擁し、地球規模で現在の情勢、将来の見通し・変化を調査分析し、政策的イニシャティヴを発揮することをめざし、その対象は軍事安全保障のみならず、地域の安定、エネルギー・気候問題ないし地球規模の開発・経済統合にまたがる国際的挑戦と自負している。

  4.  アーミテージ第3次報告は冒頭部分で「よりよい世界への海図」を描くなどと自己を美化しているが、そのすぐ後で、「CSISは発足以来、『世界の幸福を実現する力』(as a force for good in the world)であるアメリカの『突出した地位』(prominence)と繁栄を維持する方法を見出すことに献身してきた」と露骨に本音を述べている。3次にわたるアーミテージ報告は、いずれも米日同盟をテーマにしているが、それは米国の覇権と繁栄の維持のためであり、「日本のため」でないことは明白である。forceは「支配」と訳すこともできるし、prominenceは「覇権」と訳しても決しておかしくない。

  5.  同報告、とりわけ第3次報告の「日本に対する勧告」を検討すると、日本で現在進行中の事態が、あまりにも露骨に予告(日本への命令)がなされていることに愕然とし、情けなくなってくる。

  6.  2000年10月に発表されたアーミテージ第1次報告は、日本に対して「日本が集団的自衛権を禁止していることは、同盟国間の協力にとって制約となっている。」と指摘したことで有名である。しかし同報告はそれにとどまらず、さらに、「米英同盟を米日のモデルと考えている」と指摘している。英国は、世界中から非難されたイラク空爆に、米国に従って率先して当初から参加した国である。これを"モデルにせよ"というのは、「米日同盟の対等化(自衛隊も対等に血を流せ)」を求める現在の米国の要求の原点が明確に提示されている。

  7.  アーミテージ第3次報告は、日米安保条約の「極東」、あるいは「周辺事態」の範囲を超えて地球規模の日米同盟を確立するとの要求を、当然の前提としている。同報告の"Introduction"は次のように述べている。
      "Our assessment of, and recommendations for, the alliance depend on Japan being a full partner on the world stage where she has much to contribute."
    「我々(CSIS)の日米同盟に対する評価は、世界的舞台で多大な貢献をするべき日本がアメリカと完全なパートナーとなるか否かにかかっており、また、そうなることを同盟に対して勧告する。」

二 アーミテージ第3次報告の「日本に対する勧告」(以下「勧告」)の具体的内容

  1.  「勧告」でも米国との「共同防衛」を地球規模に拡大することを求めている。
    「日本は、その役割・任務を新たに見直し、地域的偶発紛争における日本防衛及び米国との共同防衛を責任範囲に含めるよう拡大すべきである。(米国関連の)同盟諸国は(日本に対して)、日本領土の範囲をはるかに超えて、より積極的、相互分担、相互運用可能なISR(情報、監視、偵察)の能力及び運用を要求している。(勧告6項)
    • 上記の「地域的」が「極東」や「周辺事態」の範囲に限定されないことは「勧告」2項で、「日本は、イランの核計画のような地域平和の脅威にも立ち向かうべき」という文言が登場することからも明らかである。

  2. "切れ目のない(シームレス)"の本当の怖い意味
     4月27日の新ガイドラインには、しばしば"切れ目のない"という用語が登場するが、勧告の6項には、「平時・緊張時・危機的状況時そして戦時のすべての局面を通じて、安全保障について米軍・自衛隊の全面的協力を可能にすることは、日本側の責任である。」という文言が出てくる。新ガイドライン第4章でさえ、せいぜい「平時から緊急事態までの」というレベルに表現を抑えているが、「勧告」では、ずばり「戦時」(まさに戦闘状態)の時も含めて自衛隊は全面的協力、即ち血を流す協力を要求しているのである。これこそ、安倍首相の持論である対等な軍事同盟="血の同盟"(扶桑社「この国を守る決意」63頁)を想起させる。

  3. 「停戦合意」のはるか以前の段階で機雷掃海艇派遣を要求!
    • 「イランがホルムズ海峡を閉鎖する意図を示唆する最初の兆候が見られた場合は、日本は同地域へ掃海艇を単独派遣すべきである」(勧告7項)
    • 国会論戦では、停戦合意成立前の機雷掃海は戦闘行為になるとして問題になったが、「勧告」は、停戦成立のはるか以前の段階から掃海艇派遣を日本に要求しているのである。

  4. PKOでの「駆け付け警護」も要求
    • 「より全面的にPKOに参加することを可能にするために、日本は、必要あれば武力行使も含めて文民及び他国のPKO要員を防護できるよう、PKO要員の権限を拡大すべきである。」(勧告9項)

  5. 南シナ海での共同監視参加を要求
     勧告第7項は、日本に対して、米国と協力しての南シナ海での監視増強を要求している。

  6.  勧告第8項は、秘密保護法体制の強化も要求している。これに従って、アーミテージ第3次報告の翌2013年12月6日に「特定秘密保護法」が強行可決された。

  7. 歴史認識問題
    • なお、勧告第4項は、「米日同盟がその潜在的可能性を全面的に実現するために、日本は、韓国との関係を複雑にし続けている歴史問題に正面から立ち向かうべきである。日本政府は、長期的・戦略的な展望をふまえた相互関係を検討すべきであり、不必要な政治的声明を出すことは避けるべきである。三極防衛協力を高めるために日韓両国政府は、懸案の「軍事情報総合安全協定」(General Security of Military Information Agreement:GSOMIA)及び「物品役務相互提供協定」(Acquisition and Cross-Serving Agreement:ACSA)の防衛協定の結論を出すべく努力し、三極軍事関与を継続すべきである。」と述べている。
    • 勧告が、韓国との関係で日本の歴史認識を問題にしているのは、「米・日・韓」の三極軍事同盟関係強化に支障があるからという立場からであり、早く日韓の間でGSOMIA及びACSAを締結することを要求している。

  8.  日本に対する経済的要求も安保条約2条にあるように、米国の対日要求の根幹である。
    (1) 驚くべきことに、福島事故の収束もしていないのに、日本が原発再稼働で世界でのリーダーシップをとることを、勧告冒頭第1項で要求している。
    (2) TPPは勿論、それよりも更に包括的・強力な「経済・エネルギー・安全保障に関する包括協定(CEESA)」を要求している。(勧告3項)
    • なお、アーミテージ第3次報告本文二、8項は、東北大震災・福島原発事故の際の、自衛隊・米軍の支援「トモダチ作戦」について、事実上、集団的自衛権行使の演習の実践であったと告白している点に留意する必要がある。

以上
(弁護士 岩佐 英夫)

(情報更新:2015年8月)


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