メンバーの素顔紹介 杉山潔志

高齢者も老化防止の運動を(京都地裁)

 変な判決をもらいました。(文末参照)高齢者も運動をして反射神経やバランス感覚を老化しないよう努めなければならないというのです。
 裁判を訴えたのは、長男が住む京都市営住宅に来ていた母親のMさん(事故当時78歳)です。Mさんは、長男の部屋から出て買い物に行く途中、いつも通る道で2匹の犬がうなり声をあげてにらみ合っていたので、ベンチと植栽の間を通り抜けようとしたところ、そこにあった弧状の溝に足を踏み入れてバランスを崩した上、降雨で溝が濡れていたこともあって着地した足を滑らせて転倒、左足首の骨を骨折しました。
 Mさんは、私を代理人として、通行が予測される位置に溝を設置していた京都市に営造物の設置・管理に瑕疵があるとして、治療費や慰謝料などの損害賠償の訴えを京都地方裁判所に提起しました。
 被告の京都市は、排水の必要性があり、弧状の溝の表面に小石を付着させて摩擦係数を大きくしており、路面を色で通路部分と休憩コーナーと区分しているなどとして瑕疵がないと主張しました。
 裁判所は、2003年5月29日、京都市営住宅の通路は広く一般に開放された空間であり、側溝もこの点を考慮して設置されなければならないが、側溝が植栽の端から突き出す形で設けられ、西方に行く近道にあり、転倒しやすい高齢者への配慮がなかったなどとして、京都市の設置・管理の瑕疵を認定しました。
 ところが、高齢者も運動をして反射神経やバランス感覚を老化しないよう努めなければならないとして、Mさんは転倒防止のための運動等の不足あるいは骨折防止のための栄養不足があったことも理由に加えて認定した損害に過失相殺を行ったのです。
 運動による老化防止という考え方は、京都市も主張していませんでした。その立証もなされていません。Mさんは、判決に唖然としました。京都市も、判決のこの部分には驚いたのではないでしょうか。
 高齢者は、年とともに体力や運動能力が低下するものです。反射神経やバランス感覚を老化させないように、どのような運動をどの程度すればよいというのでしょうか。運動をしたくても、できない高齢者もいます。
 この判決は、高齢者や障害者など歩行・移動弱者のためにバリアフリーが強調される時代の中で、時代錯誤の判決と言われてもしかたがありません。裁判官の常識が社会の常識とかけ離れているのではないでしょうか。
 ハンディキャップのある人にも優しい社会が当たり前となるように、社会全体に働きかけ、理解を広げてゆきたいものだと感じました。

(2003,6)
(朝日新聞2003年5月30日朝刊記事より引用)

「運動で老化防止を

高齢者転倒事故で京都地裁が“指導” 損害額を9割相殺

 京都市営団地で側溝に足を取られて転倒し、けがをしたのは市の管理などに過失があったためだとして、同市伏見区の女性(80)が市に約177万円の損害賠償を求めた裁判の判決が29日、京都地裁であった。葛井久雄裁判官は市の管理責任などを認めて約12万円の支払いを命じたが、運動不足や栄養不足も原因として「日常生活で、反射神経やバランス感覚を老化しないように努めなければならない」と指摘した。判決によると、女性は01年5月31日夕、同市伏見区の市営団地内を歩いていて側溝に足を取られ転倒。足の骨が折れるなどした。判決は「標識を掲示するなどの措置が要請されていた」とする一方で、女性の運動不足などを原因として挙げた。そのうえで治療費や慰謝料など認定した損害額約112万円のうち、約9割を過失相殺した。高齢者の住環境整備問題に詳しい京都女子大の中野明教授は「高齢者には運動したくてもできない人もいる。裁判所が個人に日ごろから運動せよといらのはおかしいのでは」と話している。


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