コラム 杉山 潔志 
源頼政(みなもとのよりまさ)の共謀
〔頼政の鵺(ぬえ)退治〕
 鵺という怪物をご存知でしょうか。平家物語によると、近衛天皇が毎夜丑の刻に何かに怯えて意識を失うようになりました。源頼政が推挙されて警護していると、黒雲が沸き起こり、その中に頭が猿、胴が狸、手足が虎、尾が蛇という怪物が現れました。この怪物が鵺です。頼政が矢を射ると見事に命中し、郎党の猪早太(いのはやた)が太刀で仕留めました。
頼政の墓(宝篋印塔)〈平等院・不動堂)
▲頼政の墓(宝篋印塔)〈平等院・不動堂)
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〔源氏の長老となった頼政〕
 源頼政は、鬼退治で有名な源頼光と同じ摂津源氏に属する平安末期の武将です。保元の乱(1156年)の際には天皇方に与して勝利者側となり、院の昇殿を許されるようになりました。平治の乱(1159年)では、二条天皇を擁する平清盛方に付いて勝利を収め、平氏政権下の中央政界で源氏の長老各となり、清盛の推挙で従三位に昇叙して源三位と称されました。また、頼政は歌人としても著名です。
 
〔鹿ケ谷の陰謀〕
 保元・平治の乱の後、後白河法皇の院政派と平氏が大きな政治勢力となりました。1177年、院政派と比叡山延暦寺(山門)が対立する白山事件が起こった際、後白河法皇が御幸した鹿ケ谷山荘で院政派の藤原成親、西光法師、俊寛僧都らが平氏打倒を謀議したという鹿ケ谷陰謀事件が発覚しました。参加者は一網打尽にされ、極刑に処せられました。
 
〔頼政の謀議〕
 鹿ケ谷事件謀と後白河法皇の関係を疑った清盛は、2年後、福原から兵を率いて京へ入り、法皇を幽閉し、その翌年、高倉天皇を譲位させ、高倉天皇の中宮となった娘徳子が生んだ3歳の安徳天皇を即位させました。後白河法皇の第三皇子・以仁王は皇位を絶たれ、清盛への反感を強めました。他方、平家物語によると、頼政は、嫡男仲綱が平宗盛に貸した名馬を侮辱されて立腹し、以仁王の邸宅に赴いて平氏打倒を持ちかけました。
 
〔頼政の決起〕
 以仁王は、諸国に雌伏する源氏や大寺社に平氏打倒の令旨を発しました。しかし、間もなく発覚し、検非違使が襲来する直前に女装して邸宅を脱出して園城寺へ逃れました。以仁王の引渡しを拒否された平氏は、園城寺への攻撃を決めました。77歳の老将頼政は、自宅を焼き払い50騎を率いて園城寺に入りました。しかし、平氏に懐柔された延暦寺は立たず、頼政の一行は南都興福寺を目ざして5月25日の夜間に園城寺を出立しました。
 
〔頼政の奮戦〕
 頼政らは、山科から醍醐、木幡の山沿いを進んで宇治に至り、宇治橋の橋板を落として平等院で休憩しました。そこへ平氏の大軍が追いつき、両軍は宇治川を挟んで対峙、橋合戦が始まりました。頼政軍や園城寺の僧兵らは奮闘して侵攻を防ぎましたが、平氏軍は馬筏を作って宇治川を渡河しました。頼政は平等院まで後退して防戦しましたが、奮戦むなしく、渡辺唱の介錯で自害しました。南都へ向かった以仁王も南山城光明山の鳥居前で矢を受けて亡くなりました。僧兵・浄妙や一来法師の奮闘の様子は、京都祇園祭の浄妙山に描かれています。
 
頼政道跡の石柱(長尾天満宮石段脇)
▲頼政道跡の石柱(長尾天満宮石段脇)
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〔頼政道〕
 頼政の足跡は頼政道として伝えられています。烏が一斉に飛び立って危険を知らせたという烏橋(醍醐烏橋町)、頼政が伸びた髭を剃ったというひげの辻(日野野色町付近)の伝承や長尾天満宮(醍醐伽藍町)の頼政道跡の石柱、頼政道の石碑(宇治市平尾台1丁目)、弥陀次郎川に架かる頼政橋(宇治市五ケ庄)などから頼政道を窺えますが、詳細は不明です。疲労して落馬する以仁王を警護しながら、少数の軍勢で夜間の間道を行く頼政は何を思っていたのでしょうか。
 
〔共謀が弾圧・処罰された頼政の生きた時代〕
 言論の自由や民主主義のない頼政が生きた時代、権力者にもの申すことは命掛けとなることもあり、謀反という形をとらざるを得ない場合も多かったと思われます。権力者の方も、鹿ケ谷の謀議や以仁王の謀議・令旨に見られるように、謀議があっただけで過酷な弾圧、処罰、征伐を加えました。
 
 〔国会に提出された共謀罪(テロ等準備罪)〕
 2017年3月、安倍内閣は、テロ等準備罪と称し、共謀罪法案を国会に提出しました。277もの広範な罪についての相談、合意を犯罪とし、その準備が行われると関係者を処罰するというものです。預金の引出しや電車への乗車が準備行為とされるので、処罰は限定されません。権力行使のあり方を批判する相談が犯罪とされる虞があれば、国民は意見が言えなくなり、民主主義は萎縮してしまいます。思想や研究は処罰しない、一般人は対象としないとして成立した治安維持法が、思想や宗教、文化を弾圧して戦争へと進んだ歴史を思い起こす必要があります。共謀罪法案は成立させてはならないと思います。
 
2017年1月