京都南法律事務所 新法・改正法の紹介

「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」の改正について
(弁護士 岩佐 英夫)
1 暴力団と市民生活
 暴力団は現在も日常生活のさまざまなところに浸透し、ときには一般の市民に大きな被害を与えることがあります。いわゆる「指定暴力団」は21団体あり(2006年末現在)、暴力団構成員及び準構成員の人数は、2008年末現在約82,600人です(前年に比べ約1,600人減少)。このうち、山口組・住吉会・稲川会の三大暴力団による寡占化が進み圧倒的部分を占め、なかでも山口組は全暴力団構成員の46%を占めています。
 暴力団の最近の「資金獲得活動」の特徴として、伝統的な活動(覚醒剤・恐喝・賭博・ノミ行為)に加えて、暴力団が実質的に経営に関与している「暴力団関係企業」を通じて、あるいは暴力団を利用する企業と結託するなどして金融業・産業廃棄物処理業・建設業等各種の事業活動に進出し、暴力団の威力を背景としつつも一般の経済取引を装い、様々な犯罪を引き起こし、あるいは不動産取引や証券取引にかかわる犯罪を行う傾向も指摘されています(警察庁「平成20年の組織犯罪の情勢」)。あるいは行政の公共工事への介入もあります。
 
2 「暴対法」の制定
 
 集団的暴行・脅迫行為等については、戦前から「暴力行為等処罰に関する法律」が存在していました。しかし、この法律は言論・表現活動に対する抑圧に濫用される面があるとの批判もされてきました。
 2001年(平成3年)「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」(平成3年5月15日法律第77号)が制定され、本格的な暴力団対策が始りました。同法は、いわゆる「暴対法」として「指定暴力団」(又は「指定暴力団連合」)の指定制度を導入し、「暴力的要求行為」の規制・対立抗争等による市民への危険の防止・暴力団事務所の使用制限等の対策を定めました。しかし、いきなり逮捕・処罰されるのではなく、公安委員会の措置等に従わないときに初めて処罰されるという仕組みになっています。市民の被害の損害賠償に関する規定もありませんでした。
 
3 「暴対法」の改正・強化
 
(1) こうした批判を受け「暴対法」は、法改正を繰り返して強化されてきました。とりわけ、2004年の改正(平成16年4月28日法律38号)では、「指定暴力団」(又は「指定暴力団連合」)の代表者は、
[1] 指定暴力団員が、凶器を使用した暴力行為により他人の生命・身体・財産を侵害したときは、損害賠償の責任がある(現行第31条1項)
[2] 暴力団の「内部抗争」で、指定暴力団員が、凶器を使用した暴力行為により他人の生命・身体・財産を侵害したときも同様に代表者は損害賠償責任がある(現行第31条2項)
ことを規定しました。この損害賠償責任は、通常の損害賠償と異なり「無過失責任」です。上記の要件にあてはまることを主張立証すれば、代表者の「過失」を立証する必要がありません。
(2) 民法による損害賠償請求
 (1)の[1][2]以外の類型の不法行為、例えば、凶器使用を伴わないもの、指定暴力団員でない者(準構成員等)による損害賠償については民法の一般原則によることになります(現行第31条の三)。この場合、行為者の故意又は過失を被害者が立証する必用があります。暴力団代表者に対する損害賠償請求については、「使用者」といえるか「事業遂行」といえるか等の法律問題があります。
(3) 平成20年法律第28号による改正
 さらに、平成20年法律第28号により、次のような改正がなされています。
[1] 指定暴力団の代表者に対する損害賠償請求の範囲の拡大(現行第31条の二)
 指定暴力団員が「威力利用資金獲得行為」(その指定暴力団の威力を利用して生計の維持、財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得、又は、その資金を得るために必要な地位を得る行為)を行うについて、他人の生命・身体・財産を侵害したときは、その損害を賠償する責任を認めました(但し、一定の例外はあります)。
 
☆(1)の[1][2]で述べた損害賠償責任が「凶器を使用した暴力行為」の場合に限定していたのに対して、損害賠償の対象となる行為の範囲を拡大しています。
 
[2] 損害賠償請求等に対する妨害の禁止
 i) 指定暴力団員に対する損害賠償請求
 ii) 暴力団事務所の使用差止め請求
をした請求者や配偶者等(直系若しくは同居の親族等)に対して「つきまとう」等請求者に不安を覚えさせるような方法で妨害してはならないこと(現行第30条の二)。ii)は、マンションの管理組合等がマンションの一室を使用している暴力団に対する明渡し請求等を想定しています。

☆公安委員会は、[1]の違反行為をしている指定暴力団員に対して、中止命令等を命ずることができます(現行30条の三)。あるいは、違反のおそれがある場合は、1年間以内の期間を定めて、防止に必要な事項を命ずることができます(現行30条の四)。
 
(4) 「暴力的不法行為」「暴力的要求行為」の追加等
 2001年の当初の法第ii条一号で「暴力的不法行為等」とは何かという定義については、法の別表で列挙していました。また「暴力的要求行為」については、法第9条で列挙しています。
 これらの類型は、その後の改正で次々と追加されました。
[1] 「暴力的不法行為」は当初は28の類型が列挙されていましたが、2008年5月2現在では、54の類型が列挙されています。
[2] 「暴力的要求行為」については、当初は11類型でしたが、現在は20類型にまで増えています。
特に、2008年の改正では、公共工事に対する次のような強要行為等の禁止を追加しています(現行第9条十六号〜二〇号)

i) 行政庁に対して、要件に該当する者に対して許認可をしないことを要求、あるいは要件がないのに不利益処分を要求すること(法第9条十六号)
ii) 国等の公共工事について、要件を満たさないのに、自己や関係者を入札に参加させることを要求すること(法第9条十七号)
iii) 国等の公共工事について、要件を満たしている者について、入札に参加させないことを要求すること(法第9条十八号)
iv) 国等に対して、特定の者を公共工事の契約の相手方としないことをみだりに要求すること(法第9条十九号)
v) 公共工事の契約の相手方(元受業者)に対し、自己や関係者に外注・資材納入・下請等を受け入れるように、国等が「指導・助言」等をするようみだりに要求すること(法第9条二〇号)
 
4 泣き寝入りせず、勇気をもって立ち上がりましょう!
 
 以上述べたとおり、暴力団の不法な行為に対する損害賠償請求等の権利の保護は相当強化されてきています。警察にきちんと訴えれば取り上げてくれる可能性が高くなっています。弁護士会でも相談窓口をもうけています。泣き寝入りをせず、勇気をもって立ち上がりましょう!

注)引用条文は、当初の制定時あるいは過去の法改正時の条文と現行法とでは異なっている場合がありますので、現行法の条文を引用しています(2008年5月2日現在)。
情報更新:2009年4月
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