京都南法律事務所 新法・改正法の紹介

助け合いの自主共済を潰す保険業法「改正」:誰のため?
(弁護士 岩佐英夫)
自主「共済」と「保険業」との違い
 「改正」保険業法が2006年4月1日から施行され、これまで非営利で自主的に行われてきたさまざまな「共済」運営団体にも保険業法が適用されることになりました。しかしながら、「保険業」と「自主共済」とは、全く性格が異なるものであり、これらを一緒にして規制することは大きな問題があります。
「保険業」は不特定多数の人を対象にした営利目的の商行為であり、「保険リスク」の数理計算に基づいて掛金や保険金が設定されています。現代社会では、民間保険会社は巨大な営利企業として存在し、一方で多くの利益をあげながら他方で保険金不払いの事件を引き起こしています。
これに対して、自主「共済」は営利を目的とせず、所属団体、職業や地域など、特定の構成員を対象とする勤労市民の相互扶助の仕組みです。こうした「共済」は、もともと産業革命・資本主義の進行に伴い悪化する労働者の生活を守るために、失業や災害などに備えて相互扶助の基金を募って共済組合を組織したことに始まっています。労働組合がまだ非合法だった17世紀イギリスでは「友愛組合」の形で共済組合が組織されてきました。
こうした性格の違いから、特定構成員を対象とする「自主共済」は、「改正」前の「保険業法」の規制の適用対象ではありませんでした。

日本における自主共済の例
 たとえば、高校生の保護者を対象とした「全国高等学校PTA連合会」傘下の道府県市PTAの「安全互助会」、「日本勤労者山岳連盟」(労山)など山岳団体の遭難対策基金、知的障害者の入院互助会、全国保険医団体連合会の「保険医休業保障共済」、全国商工団体連合会(全商連・民主商工会等の全国組織)、全日本民医連共済組合等、多くの自主共済があり、勤労市民にとって安い掛金で親身な給付が受けられる大切な組織です。例えば1992年に発足した全商連の共済は、民主商工会の会員と家族は年齢・健康状態にかかわらず加入でき、共済会費は月額1人あたり1000円で、補償内容は「生存者」重視で、同時に病気の早期発見・早期治療のための集団検診活動にとりくむ等、中小零細業者の助け合い運動そのものです。

自主共済の存続を困難にする「改正」保険業法
 「改正」保険業適用の結果、「共済」運営団体が「共済」事業を続けるためには、2008年3月31日までに「株式会社」または「相互会社」を設立し、「小額短期保険業者」の登録または「保険会社」の免許を受けなければなりません。
 「小額短期保険業者」は、「保険業のうち保険期間が2年以内の政令で定める期間内で、保険金額が1000万円を超えない範囲において政令で定める金額以下の保険のみの引受を行う事業」です。「保険会社」の免許は勿論、「小額短期保険業者」の登録も厳しい要件をクリアしなければなりません。開始にあたって「保証金」の供託・資産運用・情報開示など厳しい規制が課され、従来の多くの自主「共済」は、この要件を満たすことは到底困難であり、自主共済の多くは存続の危機に瀕しています。既に、宮崎県高等学校PTA連合会安全互助会、知的障害者の入院互助会である静岡県の育成互助会等が解散に追い込まれました。

保険業法「改正」の口実
 保険業法「改正」理由として「オレンジ共済事件」等があげられました。しかしながら、これらは不特定多数を対象にし、かつ営利を目的とした悪質な詐欺事件であり、「改正」前の保険業法でも十分に対処できたのであり、上記理由は口実にすぎません。
 自主共済の場合は、運営団体の維持・発展と共済会員とは密接に結びついており、会員の監視・団体の組織運営そのものによって公正な運用が担保され、これまで特段問題もなく健全に運営されてきました。

保険業法「改正」の真の狙いは?
 保険業法「改正」の真の理由は、実は米日の民間保険業界による市場と権益の拡大の要求に応えるためだったのです。
 2003年8月、在日米国商工会議所は「無認可共済(注:「自主共済」のこと)は遅滞なく金融庁及び保険業法の管理下におかれるべきである」との意見を発表し、アメリカ政府も2004年10月「日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府要望書」において、日本の保険市場において相当の市場を有する「共済」について、アメリカ資本の保険会社が競争しやすい条件を整備することを要求しています。日本の「社団法人生命保険協会」も、自主共済に対して保険業法による一元的規制を行うべきとの意見書を提出しています。あの「郵政民営化」のときと同様の力が働いているのです。

自主共済潰しは憲法違反! 自主共済に対しては保険業法の適用除外を!
 もともと団体が構成員のために自主共済を運営することは、団体加盟者の団結を維持し、構成員相互の福利厚生を図る役割をはたし、「結社の自由」の一内容として憲法21条により保障されています。日米保険業界の利益のために、これまで健全に運営されてきた自主共済の存続を困難に陥れることは、憲法違反であり許されません。現在、自主共済を運営している様々な団体が、共済事業を続けるために保険業法の適用除外を求める広範な運動がおこっています。

情報更新:2007年12月
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