敵基地攻撃(反撃)能力の保有と憲法第9条 弁護士/杉山 潔志

 岸田内閣は、2022年12月、弾道ミサイル等の攻撃に対する反撃のための数千kmの長射程のスタンドオフミサイルの配備・開発という敵基地攻撃(反撃)能力の保有や自衛隊基地の強靭化などを内容とする「国家安全保障戦略」など安保3文書を閣議決定しました。
 歴代の内閣は、憲法第9条の解釈としての自衛権の行使に際して“他に適当な手段がない場合に”理論上考え得るものの、日米安全保障条約の存在や他国に直接脅威を与える攻撃的兵器を保有しないとの考え方、自衛権の行使が日本の領域や必要な範囲の公海・公空に限られるという専守防衛論などを理由に、敵基地攻撃能力の保有を否定してきました。
 憲法第9条違反と指摘された集団的自衛権と敵基地攻撃能力が容認されれば、アメリカに対するミサイル攻撃の準備が存立危機事態と認定され、自衛隊が敵基地攻撃を行うことも想定されます。そうなると相手国も反撃し、日本の国土や街が焦土と化し、放射性物質や有毒ガスが漂い、多くの国民の命が失われていく中で強靭化された基地に拠る自衛隊が戦争を続けているという事態も起こりかねません。
 「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こる」危険がある歯止めのない敵基地攻撃(反撃)能力の保有は、憲法第9条への抵触という点で立憲主義に反し、閣議決定だけで定められた点で民主主義に反するものです。2023年が「新しい戦前」とならないよう国民の迅速かつ大きな取り組みが必要です。


(2023年5月)

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