京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
「逮捕」って何?(33条)

はじめに
 「逮捕」という言葉は、「〇〇という芸能人が逮捕された」や「悪いことをすると逮捕されるぞ」というように、日常でしばしば使われます。
 刑事ドラマなどをよく見る人は、警察官が犯人を「逮捕」するシーンを何度もみたことがあるでしょう。
 実は、「逮捕」という言葉は、実は憲法にも登場します。憲法33条は、「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、かつ理由となっている犯罪を明示する令状に寄らなければ、逮捕されない。」としています。

「逮捕」って?
 「逮捕」とは、一般に、人の身体の自由をはく奪し、引き続き短時間の拘束状態を続けることを言います。
 これは、その人の移動の自由を奪う重大な人権侵害ですから、本来は許されません。実際に刑法では、220条で不当な逮捕監禁は3か月以上7年以下の懲役になると定めています。
 一方で、適切に捜査を行い、治安を維持するためには、疑いのある人を「逮捕」する必要がある場面もあります。そこで、憲法は、上記のような条文を定めて、「逮捕」することのできる場合を限定的に認めています。

「令状」って?
 「令状」とは、刑事訴訟法199条に定められた「逮捕状」のことを指します。この「逮捕状」というのは、裁判官が、検察官や一定の警察官(警部以上)の請求を受けて、発します。
 この過程で、裁判官は、検察官や警察官の請求の内容から、本当に疑われるような事実があるのか、あるとしても逮捕する必要があるのかを判断して、令状を発することになります。
 このように、憲法は、「逮捕」に「令状」を求めることで、裁判官のチェックを強制し、検察官や警察官と言った捜査機関による「逮捕」の濫用を防止することを求めています。
 このような手続きを経て行われる「逮捕」を通常逮捕と言います。

「令状」によらない「逮捕」?
 憲法33条は、通常逮捕の例外として、「現行犯逮捕」を定めています。
 「現行犯逮捕」の場面は、イメージしやすいと思います。目の前で犯罪が行われているのに、裁判所まで「令状」を取りに行くのは、明らかに不合理だからです。この場合、犯罪が行われていることは、明らかですから誤って「逮捕」してしまう危険はそれほど高くありません。
 さて、憲法に明示的に定められた例外は、「現行犯逮捕」だけですが、実は刑事訴訟法には、もう一つ例外が規定されています。それが「緊急逮捕」です。
 「緊急逮捕」とは、「逮捕」してから、「令状」を求めるというもので、あらかじめ逮捕状を求めている通常逮捕とは、順序が逆になっています。この場合、裁判官によるチェックが事後的なものになることから、憲法がおそれた「逮捕」の濫用がなされてしまう危険が高くなります。
 そこで刑事訴訟法は、死刑や無期懲役などにあたる重大な罪を犯したと疑うに足りる充分な理由がある場合で、かつ急いで逮捕する必要があり、裁判官の逮捕状を求めることが出来ない場合に、緊急逮捕を認めています。
 「緊急逮捕」が憲法の求める手続きに反するのではないかという点が、裁判で争われたこともありましたが、最高裁判所は、憲法33条の趣旨に反するものではないとして、合憲という判断を下しました。

終わりに
 「逮捕」は極めて重大な人権侵害です。したがって、軽々しくなされてよいものではありません。
 しかし、「逮捕」は、恣意的に運用され、様々に悪用されてきた歴史があります。そのため憲法は、「逮捕」ができる場合を限定しています。
 刑法は、逮捕監禁罪を定め、公務員が濫用的に逮捕した場合には、さらに重い罪に当たるとしています。刑事訴訟法も、「逮捕」が濫用されないよう様々なルールを定めており、いくつもの判例も積み重なっています。
 このような状況にもかかわらず、不当な「逮捕」はなくなっていません。
 もし、あなたや親しい人が「逮捕」され、おかしいなと思ったときには弁護士にご相談ください。
(弁護士 石井達也・2023年1月記)

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