コラム 杉山 潔志 
石敢當(いしがんどう・いしがんとう・せきかんとう)/td>
〔石敢當とその由来〕
 道路で「石敢當」などの文字が刻まれた石碑や石標を目にしたことはありませんか。石敢當には魔除けの効力があるといわれています。石敢當の名称は、後漢の武将ないし力士の名前、五代の晋の武将の名前、石の持つ呪力を信仰の対象とする石神信仰に由来するなどの諸説があります。唐の代宗大暦5年(770年)に作られた石敢當があることから、中国では8世紀後半には石敢當を立てる風習が広がり、福建省地方を通じて、琉球や東南アジアに広まったといわれています(「石敢當と文化交渉 ー奄美諸島を中心としてー 」2008年3月・関西大学文学部高橋誠一教授)。
 沖縄ではさまざまなマジムンという魔物が街の道を徘徊しており、マジムンに股をくぐられると、その人は死ぬなどの災いがあると伝えられています。マジムンは、速く直進して走る性質を持っており、丁字路などに突き当ると曲がり切れず向かいの家に跳び込むので、突き当りに石敢當を設けて衝突させ、マジムンの魔力を奪うのです。
 
大山崎町・西国街道の石敢
▲大山崎町・西国街道の石敢當
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〔京都府下の石敢當
 高橋教授の論文によれば、石敢當は国内29道府県に存在し、沖縄県(推定1万基以上)、鹿児島県(1000余基)に多く、京都府には大山崎町大山崎堀尻と京都市南区の旧陶化小学校正門内にあります(大山崎ふるさとガイドの会のホームページでは、京都府下に3個あるとされています)。
 大山崎町にある石敢當は、西国街道と久我畷(現京都府道下植野大山崎線)の交差点の南側(東黒門跡)にあります。久我畷は、西国街道と合流する手前で右側へ曲がっているので、久我畷を直進してきた魔物が当たって離宮八幡宮の神領に入らないように久我畷の延長線と西国街道の交点に石敢當が設けられているとのことです(大山崎ふるさとガイドの会のホームページ)。
 また、京都市南区にある石敢當は石灯籠に石敢當の文字を刻んだもので、1854年に作られて勧進橋西詰に建てられたものの鳥羽伏見の戦いなどで傷みが激しくなり、1889年の橋の架け替えで撤去され、1908年に陶化小学の校門内に移されたとのことです(京都新聞2007年7月25日「ふるさと昔語り(127))。旧陶化小学校に行ってみましたが、校門が閉められており石敢當灯籠を見ることはできませんでした。

 
〔大津市で発生した痛ましい交通事故〕
 2019年5月8日、滋賀県大津市の丁字路交差点で2台の乗用車が衝突して1台が歩道に乗り上げ、信号待ちをしていた3名の保育士と13名の保育園児に突っ込み、園児2名が死亡、15人が搬送される痛ましい事故が発生しました。
 自動車は、保有コストや事故の危険性、環境に対する負荷などのマイナス面を上回る利便性があり、現代の社会に広く普及しています。交通ルールを順守し、安全確認を怠らず、整備された自動車を適切に操作すれば、自動車事故は避けられるはずです。しかし、悲惨な交通事故は後をたちません。

 
山陽道(西国街道)と久我畷の説明版
▲山陽道(西国街道)と久我畷の説明版
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〔災い回避の願いと方策〕
 自動車事故をなくすために様々な施策が実施されています。その一つは、刑罰の威嚇力によって事故を防止する方法です。過失による自動車事故で人を死傷させた者には、業務上過失致死傷罪(刑法第211条)が適用されてきましたが、飲酒や無免許の運転などによる悲惨な事故の発生を受け、2014年、危険運転致死傷罪の新設や重罰化などを内容とする自動車運転死傷行為処罰法が施行されました。
 自動車事故の減少や被害を軽減には、刑罰や規制だけでなく、子どもやドライバーに対する教育政策や、自動停止装置などの自動車への標準装備、歩道の安全を確保するためのガードレールやポールの設置などの自動車や道路環境の整備などの施策も必要です。
 
〔現代の石敢當〕
 自動車は、運転次第では走る凶器となります。事故防止のためには、ドライバーがマジムンにならないよう、体調を管理し、安全のための注意をして自動車の運転をすることはもちろんですが、道路環境の整備も必要です。2019年に発生した保育園児を巻き込んだ事故も、交差点に面した歩道の部分にガードレールやポールが設置されていたら、これが石敢當となって死亡事故は避けられていたかもしれません。なお、事故後、現場の交差点では、歩道側のゼブラゾーンが拡大され、歩道内に金属製防護柵が設置されました。
 
2019年11月