コラム 杉山 潔志 
【書評】証言沖縄スパイ戦史
証言沖縄スパイ戦史

 太平洋戦争で沖縄戦が始まる前、15~17歳の少年らが召集され、護郷隊2部隊が編成されました。各隊長は、陸軍中野学校で遊撃戦(ゲリラ戦)の訓練を受け22歳で赴任した青年将校でした。住民に紛れての情報収集、橋梁の破壊や妨害物の設置、米軍の燃料庫などの爆破、戦闘などが任務でした。
 本書は、生き残った元護郷隊員などの証言を踏まえてスパイ戦争の実相を伝え、戦争の本質を明らかにしようとするものです。
 本書を読むと、まず、多くの証言を集めたことに感心させられます。次に、少年たちが兵役前であることに疑問を持たず、誇りをもって応召したことに驚かされます。護郷隊員たちは、圧倒的な米軍に太刀打ちできないと感じながらも、日本軍の反攻を信じて任務に就き、たおれていきました。
 日本兵による住民殺害の理由も認識不十分と知らされました。日本軍敗残兵とともに追い詰められた住民の中には軍のスパイリスト作成に協力した者もおり、それ基づき確たる証拠もなく予防的に住民殺害が行われていたようなのです。
 陸軍中野学校宇治分校の存在や少年たちの本土防衛隊(遊撃隊)の組織化の着手にも驚かされました。戦後誕生した自衛隊は専守防衛が基本です。戦争となれば日本国内での戦闘もあり得ます。そうなると、住民同士が互いをスパイと疑い合っての密告と殺害が起こるかもしれません。沖縄の悲劇を教訓として「戦争をする国」への歩みを止めなければならないと改めて思いました。

2020年11月