メンバーの素顔紹介 吉田眞佐子

婚外子児童扶養手当訴訟
「認知による手当打ち切りは無効」の最高裁判決

 最高裁判所第2小法廷は、2002年2月22日に、婚外子が認知を受けた場合には児童扶養手当を支給しないとする施行令の違憲、違法性を争った京都のAさんの事件について、「本施行令は児童扶養手当法の委任の範囲を逸脱し、違法な規定であり、無効」との判決を出しました。なお、最高裁判所第1小法廷は、同年1月31日に同じ争点の奈良、広島訴訟について同趣旨の判決を出しています。
 京都訴訟は、1995年に京都府知事を被告として提訴、1998年8月に京都地方裁判所は「本施行令は児童扶養手当法違反」という原告勝訴の判決を出しました。政府はこの判決に先立つ同年6月に、婚外子が認知を受けた場合でも支給を受けられるように本施行令を改正し、同年8月1日に施行されていました。政府自ら本施行令の差別性、問題点に気づき改正していたのに、京都府は、厚生省の指導のもと控訴したのです。控訴審の大阪高等裁判所は、2000年5月に「社会保障制度の立法・政令は、広い裁量に委ねられる」「認知により法律上の父に扶養請求ができるようになり、生活環境の好転があったと評価できる」という全く社会実態を直視しない理論で、憲法違反、児童扶養手当法違反等ではない、としてAさんの訴えを棄却していました。
 これに対し、最高裁判決は「法は、類型的に見て世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童を支給対象児童として定めている」と解釈し、「婚外子が認知されても、当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもないし、父による現実の扶養を期待することができるともいえない」という、ごく常識的な判断で「無効」としました。施行令がその上位の「児童扶養手当法」違反であれば、直ちに無効ですので、憲法違反、国際条約違反は検討不要、となりました。
 この事件は、根底には婚外子差別の問題があります。「婚外子には本来は手当をやる必要はないが特別に未認知の婚外子のみ支給対象とした」というのがそもそもの行政側の意識だったのです。
 この国には、人々の意識上だけではなく、今なお様々な立法行政上の婚外子差別が存在しています。出生による差別はしてはいけない、と率先して差別なき立法行政を行い、国民の模範となるべき国が、差別を是正しようとしないのはだめだよ、と国連から何度も是正勧告をされていますが、「国民世論が」と言って国は逃げています。
 弁護団はこの裁判のなかで婚外子差別は平等原則違反という司法判断を獲得しようと憲法違反、国際条約違反について大きな力点を置いて主張立証をしてきました。同種の奈良地裁判決、広島高裁判決は憲法違反による無効を認定しています。従って、今回の「法違反で無効」という判決は、「憲法判断はないのか」と拍子抜けのように感じた方も多いかもしれません。
 しかし、裁量権が広いといわれてきた社会保障立法において行政のつくった政令が「法律違反、無効」とされたのですから、この判決自体はとても画期的なことです。社会保障立法でもいったん作られた制度においては平等適用をすべきというあたりまえのことがようやく認められたわけです。
 厚生労働省は本年3月7日に「過去に認知による手当打ち切りをされた人について当事者の申請があればさかのぼって手当を支給する」と発表しています。
 私たち弁護団は、今後も、人々の人権保障のために役立つ司法を実現するよう力を尽くしていきたいと思っています。
(2003年3月14日)