京都南法律事務所 新法・改正法の紹介

新型コロナウイルス感染症関連三法
1 新型インフルエンザ等対策特別措置法 同法の一部を改正する法律(令和2年3月14日施行)

 「新型コロナウイルス感染症について、同法第2条第1号に規定する新型インフルエンザ等とみなして、この法律及びこの法律に基づく命令の規定を適用する」(附則・第1条の2)としました。2年間の時限立法です。
 「この法律は、国民の大部分が現在その免疫を獲得していないこと等から、新型インフルエンザ等が全国的かつ急速にまん延し、かつ、これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれがあり、また、国民生活及び国民経済に重大な影響を及ぼすおそれがあることに鑑み」(同法1条・目的)とあるように、新型インフルエンザの流行を中心に想定した感染症対策のために作られた法律です。
 新法を制定することも検討されましたが、同じウイルスの感染症である今回の新型コロナウイルス感染症にもそのまま適用することになりました。
 この間、安倍首相(政府対策本部長)が何度か発した緊急事態宣言は、この法律(32条)によるものです。
 なお、安倍首相が2月27日に行った、「小中高校等について3月2日から春休みに入るまで臨時休校とする」ように要請した点は、まだ、この法律の適用のない中での要請であり、法的な根拠の乏しいものでした。
 突然、解散となった「有識者会議」ですが、法改正前の2月に設置されていたものですので、その意味では、法律との関連はないものでした。後続の組織として発足した「新型コロナウイルス感染症対策分科会」は、首相の諮問機関である「新型インフルエンザ等対策有識者会議」(同法6条5)の下に分科会の1つとして設置されました。法的根拠はともかくとして、元あった「有識者会議」よりも扱いが低いような感じがします。
 現時点では、新型コロナウイルス感染症に対する有効なワクチンが開発されていませんので実際の適用はありませんが、医療従事者などに優先的にワクチンを接種する「特定接種」に関する規定もあります(同法28条)。誰に優先的に接種するかをめぐって実際の適用の場面においては、なかなか厄介な問題が生じるかもしれません。

2 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律−新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令(30号・最終改正令和2年2月13日・2月14日施行ほか)

 この法律は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする」もので(同法1条)、対象となる感染症について、エボラ出血熱、狂犬病、鳥インフルエンザ、新型インフルエンザ…という形で、列挙し特定しています(同法6条)。しかし、当然のこととして、新型コロナウイルス感染症については、挙げられていませんでしたので、政令で「指定感染症」に指定されました(なお、この指定自体は、最終改正前の政令で行われており、施行日は2月1日です)。1年間の時限立法です。
 感染症の予防や患者に対する医療に関して、中心的に「必要な措置」をするのは、都道府県、及び、「保健所を設置する市又は特別区」(同法64条)であり、保健所がその最前線の機関となります。
 感染症が疑われる患者からの検体の採取・検査は、行政検査として、この法律に基づいて行われています(同法15条)。PCR検査を保健所が主導して行われているのは、このことに拠るものです。なお、全国の保健所数は、663(1998年)から480(2016年)と大きく減少しています。合理化のつけが出ているように思います。
 都道府県知事等は、感染症患者、疑似症患者については、感染症指定医療機関に入院させることになります(同法19、20条)。なお、京都府の指定病院数は京都府立病院をはじめとして7医療機関、38床です(2019年4月1日現在)。ちなみに、昨年9月に厚労省は、公立・公的病院のうち424病院についてリストを公表し、統廃合を含めた再編の検討を求めました。感染症指定医療機関である病院も多く含まれています。

3 検疫法−政令(令和2年1月28日・2月1日施行)、同政令の改正(令和2年2月13日・2月14日施行)

検疫法は、「国内に常在しない感染症の病原体が船舶又は航空機を介して国内に侵入することを防止するとともに、船舶又は航空機に関してその他の感染症の予防に必要な措置を講ずることを目的とする」(同法1条)ものですが、この法律で必要な措置をとる対象となる「検疫感染症」(同法2条)には、それまでは、当然のこととして、新型コロナウイルス感染症は含まれていませんでした。そのため、1月28日に、急遽、その指定をしたものです。1年間の時限立法です。
 船舶の入港、乗組員の上陸について、検疫済証の交付の後でなければ認めないとしています(同法4、5条)。水際での感染防止を目的としているわけです。
 ダイヤモンド・プリンセス号における、乗船者の隔離・停留の措置は、この法律に基づいて行われました(同法15、16条)。
 以上

弁護士 中尾 誠

2020年8月
 
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