鉢巻飯の神事 |
〔啓蟄〕
24節気の3番目を啓蟄(けいちつ)といいます。啓蟄は「冬ごもりの虫がはい出る」(広辞苑)という意味です。定気法(黄道(天球における太陽の見かけ上の通り道(大円))の春分点を基点(黄経0度)として15度ずつ24の分点に分け、太陽がこの点を通過する時を24の節気と定める方法)では、太陽が黄経345度に位置したときが啓蟄にあたり、毎年3月6日ころが啓蟄の日となります。2016年は、日本中央標準時で3月5日12時44分に太陽が黄経345度に位置し、天文学ではこの瞬間が啓蟄とされています。
なお、啓蟄は、太陰太陽暦の2月節(せつ)であり、啓蟄の日から2月中(ちゅう)が始まる立春の前日までの約15日の期間の意味で使われることもあります。
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▲鉢巻飯の神事 |
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〔鉢巻飯の神事)
京都府久世郡久御山町野村にある常磐(ときわ)神社では、毎年啓蟄が到来した3月6日に「鉢巻飯(はちまきめし)の神事」が行われます。
鉢巻飯の神事は、もともと「御弓事」と呼ばれる神事で、白米を本社と末社の若宮、蔵王社、稲荷社に供え、蔵王社(なまって「らおさん」と呼ぶようです。)には、別に新酒1対、飯3升を供えて高張提灯を左右に立て、市殿(いちんど)が神楽をあげ、境内で弓を射る神事もあったそうですが、現在は、水分(みくまり)大明神を祀る蔵王社に、海の幸、山の幸、細縄を巻いた15cmほどの細長い円筒形様の握り飯の神饌(しんせん)を供えて営まれます。この神饌の握り飯が鉢巻飯と呼ばれています。本社と地蔵堂にも鉢巻飯が供えられます。
鉢巻飯の由来は、牛頭(ごず)天皇(すさのおの命(みこと))のお告げがあり、「人間は何時も頭に鉢巻を締めている気持ちで額に汗しながら仕事に精を出すことを忘れないように」と鉢巻飯を作って勤労の尊さを知らしめたことによるといわれています(以上、久御山町ホームページ「鉢巻飯の神事」より)。
2016年の神事では、3月6日午後2時から氏子が「らおさん」の祠に藁を巻いた鉢巻飯などの神饌を供え、本社など各社にも鉢巻飯を供えて神主が祝詞を唱え五穀豊穣が祈願されました。神主さんの話では、鉢巻を巻いた気持ちで仕事に励むので、良い水と五穀の豊穣をお願いするという神事であるとのことでした。
〔勤労の尊さと勤労の権利〕
牛頭天皇がお告げが尊さを知らしめたという"勤労"は、日本国憲法では「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」(第27条1項)と規定され、権利と義務の対象とされています。この「勤労」は「労働」の意味で、「すべて国民は、勤労の権利」を有し」とは、勤労を欲する者に対して国が職をあたえるよう施策し、それができない場合には、失業給付等の適当な失業対策を講じる義務があるという意味です。
勤労の権利は、国に対して職を請求する具体的な権利ではないと理解されていますが、国民には「職業選択の自由」がある(憲法第22条1項)ので、国は、国民に特定の職業を強制できないという条件のもとで、国民に対して勤労の場を提供する義務があるのです。
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▲久御山町にある常磐神社 |
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〔勤労の権利の現状〕
日本では、労働者派遣法の施行・適用業務の拡大、雇用形態の多様化が進み、不安定雇用・低賃金の非正規労働者が増加してきました。2015年11月4日発表の厚生労働省の「平成26年就業形態の多様化に関する総合実態調査」によると、非正規労働者が39.8%に達し、現在の就業形態を選んだ理由は、「正社員として働ける会社がなかったから」が契約社員(専門職)で31.8%、派遣労働者では37.7%も存在し、それぞれ53.8%、48.2%の人が「正社員に変わりたい」と希望しています。他方、総務省統計局が2016年1月29日に発表した労働力調査では、2015年12月の完全失業者は204万人(3.3%)となり、4年前の水準より改善していますが、非正規労働者の増加によって失業率の改善が図られているようです。
2015年9月に「改正」された労働者派遣法は、業務単位の期間制限や個人単位の期間制限を骨抜きにし、また、正社員と派遣労働者との均等待遇が保障されないなど、労働者派遣の永続利用と増加を促すような内容となっています。
〔ディーセント・ワークの保障〕
憲法が保障する基本的人権としての勤労の権利は、国に対し、国民に勤労の場を提供するだけでなく、"ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)"を保障する義務を負わせているといえます。憲法は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない。」(第12条)と定めており、ディーセントワークの保障も国民の不断の努力がないと実現・保持できません。
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2016年4月 |
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