憲法を知ろう

家族生活における個人の尊厳と両性の平等(24条)
日本国憲法24条の規定
第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
2項 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
これまで様々な権利,たとえば,プライバシー権,自己決定権,人格権としての名誉権,環境権,嫌煙権,平和的生存権などについて,憲法上の保障が主張されてきました。また,裁判でも認められたケースがあります。
日本国憲法の人権規定は,憲法13条により,時代の変化に柔軟に対応できるものです。
ここでは,プライバシー権と自己決定権について述べます。
プライバシー権
裁判所は,憲法13条をプライバシー権保護の規定であることを認めています。公権力による個人情報の収集が違法とされた裁判例としては,大阪市が全職員に対して回答を義務付けて行ったアンケートについて,その質問項目の一部が職務と関連せず,その回答を強制することはプライバシー権を侵害するとしたケース(大阪高裁平成27年12月16日判決),陸上自衛隊情報保全隊が自衛隊のイラク派遣反対運動の参加者らの活動を監視し情報を収集していたケース(仙台高裁平成28年2月2日判決)などがあります。
また,最高裁は,GPS捜査について,「個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的に伴うから,個人のプライバシーを侵害し得る」として,違法としました(最高裁平成29年3月15日判決)。
自己決定権
憲法13条の幸福追求権は,自分の人生をどのように生きるかに関する重要な決定を,自らの意思で自由になしうるという「自己決定権」を保障しています。たとえば,①性や家族のあり方に関する自己決定権,②髪型,服装などのライフスタイルにかかわる自己決定権,③生命,身体に関する自己決定権などです。
性や家族に関しては,同性婚の自由,旧優生保護法に基づきなされた不妊手術の強制などが裁判で問題となっています。
髪型や服装などのライフスタイルに関しては,学校の校則による過度の制限について,よく問題となります(いわゆるブラック校則問題)。子ども達も憲法上の人権の主体です。その校則の必要性の程度と,児童生徒に対する人権侵害となっていないかを検討し,時代に合わせて見直すことが求められます。
生命の自己決定権に関しては,安楽死や,治療内容の決定権(エホバの証人輸血拒否事件:最高裁平成12年2月29日判決)などがあります。
身体に関する自己決定権については,性同一性障害者の性別変更の要件として,「生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」を求める法律の合憲性が問題となっています。最高裁は,同規定について「意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できない」としつつ,「現時点では,憲法13条,14条1項に違反するものとはいえない」としました(平成31年1月23日判決)。性別変更の要件として生殖能力を失わせる手術を要求することは,子どもを持つか否かに関する自己決定権を失わせることとなります。2014年に世界保健機関(WHO)が,2017年には欧州人権裁判所が,この要件を人権侵害と判断しています。
(弁護士 吉田眞佐子・2021年6月記)