京都南法律事務所

相談予約
075-604-2133
気になる話題

脱走と敵前逃亡

2017年12月25日

 2017年11月13日、北朝鮮軍の男性兵士1名が板門店から軍事境界線を越え韓国側に亡命し、北朝鮮側から銃撃を受けて境界線から韓国側に約50m入った地点で負傷して倒れ、韓国側に保護されました。朝鮮戦争は、1953年7月、休戦協定が成立しましたが、戦争が終結している訳ではありません。
 軍事遂行命令を受けた兵士が戦闘現場から逃げることを敵前逃亡といい、戦闘以外の時に逃げることを脱走といいます。亡命兵士は、北朝鮮側から見れば脱走兵であり、銃撃を契機に戦闘が始まれば敵前逃亡兵となる可能性がありました。
 恐怖から逃げるのは生物の本能ですが、本能のままに逃げたのでは戦争ができません。「戦争をする普通の国」は、脱走や敵前逃亡を防ぐために軍刑法で死刑を含む極刑や上官による即時の射殺などを認めています。
 旧日本陸軍の陸軍刑法は、故なく職域を離れ又は職役に就かない者について、敵前の場合は死刑、無期若しくは5年以上の懲役又は禁錮、戦時、軍中又は戒厳地境にあって3日を経過した場合は6か月以上7年以下の懲役又は禁錮、その他の場合において6日を経過した場合は5年以下の懲役又は禁錮に処すと定めています(第7章逃走の罪第75条)。違反者は、軍法会議によって裁かれました。
 自衛隊員の場合、防衛出動命令を受けた隊員が正当な理由なく職務場所を離れ3日を過ぎた場合又は職務場所に就くように命じられた日から3日を過ぎても職務場所に就かない場合には7年以下の懲役又は禁錮に処されます(自衛隊法第122条1項2号)。また、軍法会議のような特別裁判所は、憲法第76条2項によって禁止されています。敵前逃亡の規定がなく、刑罰が軽いのは、陸海空軍その他の戦力を保持しないと定めた日本国憲法があるからです。
 安倍内閣は自衛隊条項を付加する憲法9条改正を狙っています。自衛隊が憲法の規定で認められると、敵前逃亡罪などを定める軍事刑法が復活し、戦争をする自衛隊へと変貌していくのではないかと危惧されます。

弁護士 杉山潔志

ページトップへ戻る