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「残置物の処理等に関するモデル契約条項」について

2021年9月3日

 国交省は、本年6月、賃貸住宅に関する「残置物の処理等に関するモデル契約条項」を発表しました。
 これは、賃貸住宅に住んでいた単身の高齢者が死亡し、その相続人が分からない場合や協力が得られない場合には、賃貸借契約の解除や残された荷物(残置物)の処理が容易でなく、賃貸人がこうした不安を抱くため、単身高齢者がなかなか賃貸住宅に入れない事態が広がっていることから、賃借人が予め、自分が死んだときに、①賃貸契約を解除することや、②残された荷物を処理することを、「受任者」に頼んでおくこととして、賃貸人の不安を払拭し、もって単身高齢者の居住の安定確保を図るとされて提案されたモデル契約条項です。
 単身高齢者の居住確保が喫緊の課題であることは間違いありませんが、今回の提案には問題もあり、注意深く見てゆくことが必要であると思われます。
 モデル契約条項は、国交省が出したもので、契約実務への影響は小さくないと思われます。まず、モデル契約条項は強制ではありませんが、高齢者はこれら契約に応じなければ入居できなくなり、これら契約を断れなくなるものと思われます。また、国交省は、「受任者」として、賃貸人側の不動産管理業者でもOKとしており、本当に賃借人の利益が尊重されるか、懸念が払しょくできません。
 原則から言うと、賃貸契約は相続され、相続人の居住が可能であり、また、残された荷物の運び出しや処分は、法的な手続きを踏むことが必要とされています(裁判や強制執行、自力救済禁止)。モデル契約では、相続人の権利が侵害されることにならないか、事実上、自力救済を認めることにならないか不安があります。賃借人が亡くなっている下、「受任者」が適切に受任業務を行なうかのチェックが誰からもなされないことも心配です。
 また、高齢者の居住権確保が、今回のモデル条項だけで十全となるとは考えられません。高齢者が安心して住める住宅政策の確立が必要でしょう。

弁護士 井関佳法

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