やましろのくに 山背<やましろ>の国のよいこと・よいもの・よいところ…
切り絵とエッセイで紹介します
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No.108 春のひのやくし




 薪を伐り出し、炭を焼き、水田や畑で米屋野菜が育つーーそんな情景が日常の中にあった時代「暮らし」を人に提供してくれる周囲の自然は、人との関わりの中で美しく輝いていました。民家や寺も自然に溶け込んでいるこの里の風景は、そこに住むいろいろな生命が共に生きる姿であり、それが多様な色や形、音となって広がる日本の原風景となりました。人は自然の中に生きる一つの生物としてそこから命の安らぎと生きる力を得てきたのです。近年、求められ論じられている「景観」ですが、痛めつけられたこの自然に健康をとり戻すことでもあると思います。
 絵は裸踊りで有名な日野の法界寺ですが、安産、乳護の「ひのやくし」として千年余の命のつながりを今に伝えてくれます。経済第一、繁栄をみせた虚妄の果てに人口減の道を辿りはじめた日本社会です。「ちちやくし」の庭に見た里の情景は、生命を宿し慈しみ育てる女性の姿でした。現代社会の歩みはまずここから……そのような思いです。

(切り絵と文・川越 義夫)
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