山背<やましろ>の国のよいこと・よいもの・よいところ… 切り絵とエッセイで紹介します |
No.88 金札宮のクロガネモチ(伏見区 丹波橋駅西) |
人は、悠久の時の流れの一瞬を生きているにすぎません。その−瞬の積み重ねを歴史というのでしょうが、伏見の町が美しく心安まるのは、先人が「その一瞬」を大切にして今に伝えようとしたものが多くあるということでしょう。 この金札宮は、750年の創建で伏見で最も古い神社です。枝を広げる見事なクロガネモチが美しく赤い実を輝かせています。1754年に出版された『山城名跡巡行志・第五』には、このモチの木らしい記録があるとのこと、 1984年には、京都市が天然記念物に指定しています。 元日。おみくじをモチの木に結ぶ人の姿は、この地とここに住む人々との深いつながりを感じさせる風景でした。人が立つ大地と自然は人の生命を守り、文化を育むもの―そこにまで経済原理がもち込まれたことが、今日の社会の荒廃を招いたことは確かです。神社で会った人の地に足のついた暮らしに返ること、また「その一瞬」 を次代に引き継ぐ価値のあるものにするには大きなエネルギーが要ると思いますが、木と人の姿はそこへの道すじを示しているように思いました。 (切り絵と文 川越 義夫) 作者プロフィール |