やましろのくに 山背<やましろ>の国のよいこと・よいもの・よいところ…
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No.94 浅みどりの興聖寺(宇治市)



 昔から人は自然の中を歩くことでそこからまた新しい明日を見てきたように思います。
 宇治川の畔。さわらびの道を宇治上神社から少し北へ行くと、仏徳山(大吉山)へ向かう道が豊かな緑の装いで人を迎えてくれます。宇治市内を一望できる山頂から興聖寺までの道を加えても一時間足らずですが、この道を歩く間にも人間への最大の贈りものはなにも飾らないあたりまえの自然であることを思わされます。木や草の葉の多様な重なりを見る目、風のひそやかなうたを聴く心一それこそが知の力を養う源であると気づかされるからです。
 絵は花から緑に美しい変化をみせる興聖寺の前。後ろは芽ぶいた仏徳山。人の目には、そこここで確かに桜の花びらが地面に散り敷いていくのですが、柔らかな楓の若葉がその桜色をまとったかのように見えます。
 そんな風景を背に若い女性達の静かな語らいがありました。それが心強く思えたのも、荒廃した社会に光を投げかけてくれるような落ちついた物腰が芽吹と重なったからかもしれません。

(切り絵と文 川越 義夫)
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