やましろのくに 山背<やましろ>の国のよいこと・よいもの・よいところ…
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No.96 伏見の酒蔵(京都市伏見区)



  春爛漫には少し間があり、冬枯れがかすかに微笑むような旧高瀬川の風景です。町の人が菜の花と呼ぶ黄色い花は咲きはじめたばかりですが、それでも陽光を呼ぶような力強さがあります。中央の酒蔵は、寛政3年(1791)創業の松本酒造です。それはまた、幾多の歴史を映しながら独自の文化を今に育む伏見の町の一つの舞台でもあります。
 ここに立つと心が伸びやかに解放されていくことに気がつくのですが、「酒造りの根底にあるのは機械ではなく人の力…」という蔵人たちの心が伝わってくるからかもしれません。科学一本来、それは暮らしを豊かにする筈でした。しかし一方で道を見失った思いも持つ現代人に、生き方の原点を教えてくれているようです。
 手入れされた古い寺、農家、庭木、それらを見ながら歩くと、その心が町中に生きていると感じます。人を生き生きさせる風景−それもまたその地に住む人が創っているのです。酒蔵と町の姿の美しい重なりでした。

 (切り絵と文 川越 義夫)
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