石破新首相と改憲問題 ~岸田前首相の置き土産
弁護士 杉山潔志
岸田前首相は、8月14日、次の自民党総裁選挙に出馬しないと表明し、3年間の政治を振り返り、今後の課題を提示しました。その中で憲法「改正」にも触れ、①自衛隊の明記、②緊急事態条項について、条文の形でまとめて改憲発議につなげていかなければならないと語りました。自民党の次期総裁選挙では、憲法「改正」が争点の1つとなりました。
【石破新首相の改憲・安全保障政策】
石破新首相は、自民党きっての改憲タカ派と言われてきました。国の自衛権を体現する組織は国際的には「軍」であり、戦力不保持と交戦権を否認する憲法第9条2項の削除を主張し、日米・米韓・米比などの軍事同盟を結合したアジア版NATO(北大西洋条約機構)の実現と核共有の検討を提案していました。石破新首相は、自民党総裁就任会見でアジア版NATO実現への意欲を表明し、自民党憲法改正実現本部での論点整理を受けて、持論の第9条2項削除論を棚上げし、自衛隊条項明記の改憲論で自民党内の足並みをそろえ、任期中の改憲実現への意欲を示しました。
【「戦争をする国」へ向けて邁進する日本】
安倍内閣での集団的自衛権の容認・法制化に続き、岸田前内閣は、閣議決定した安保三文書に沿って自衛隊基地の強靭化、敵基地反撃(攻撃)能力の保有を進め、防衛装備移転三原則運用指針を改定して英・伊と共同開発する次期戦闘機の第三国への輸出を認めました。石破新首相のもとでアジア版NATOや核共有が実現すれば、中国、北朝鮮、ロシアなど核兵器を保有する周辺国家との関係をさらに緊張化させる事態となります。
【自衛隊条項付加の憲法「改正」の危険性】
自衛隊条項を付加する憲法「改正」案では、①憲法第9条の解釈は現在と変わらない、②災害派遣や国と国民の安全のために働く自衛隊が“違憲”と言われる余地があってはならないなどの論拠が主張されています。しかし、付加された自衛隊条項は、第9条2項と矛盾し、これを空文化する危惧されます。日本は軍事力の管理に失敗し、日本とアジアの人々に戦争の惨禍をもたらした経験を持つ国です。“自衛のための実力”を認めるとしても、その存在や装備、行動などを違憲と主張し得る対象としておくことに重要な意義があると思われます。
【日本国憲法制定時の原点に立ち返って考える必要性】
今、世界に目を向けると、紛争を戦争や武力行使によって解決する動きが大きくなっています。多数の国民が死亡し、街が灰燼に帰しても戦争に勝ったら是と言えるのでしょうか。武力による相手方の押え込みは、真の平和ではなく、新たな戦争の火種を宿した停戦状態にすぎません。戦争の惨禍の中で誕生した憲法第9条を持つ日本政府は、軍事力による紛争抑止ではなく、第9条の精神を世界に拡げ、軍事同盟を解消して、信頼の醸成・紛争を予防する外交・紛争の平和的解決を軸とした集団安全保障の枠組みを創って、“敵意”のない平和な国際関係の樹立に向けて努力しなければならないと考えます。
(2024年10月)