京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
裁判を受ける権利と裁判のIT化(32条)

「憲法32条」とは?
 日本国憲法32条は、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」と規定しています。したがって、誰であっても、「人」と認められれば、法的な紛争について裁判を受ける権利があります。

「裁判のIT化」とは?
(1)裁判のIT化のプロセス
 日本政府は、「未来投資戦略2018(平成30年6月15日閣議決定)」の中で、「裁判手続きのIT化の推進」を決定しています。
 裁判のIT化は、「3つのe」を「3つのフェーズ」(段階)を経て実現する計画になっています。

(2)「3つのe」
 「3つのe」とは、@e提出(e−Filing)、Ae法廷(e−Court)、Be事件管理(e−Case Management)の総称です。
 わかりやすく言うと、@は裁判に関する書類をデータでやり取りしましょうということ、Aはインターネットを使ってどこでも裁判に出席できるようにしましょうということ、Bは裁判に関する記録をコンピュータ上のデータの形で保管しましょうということです。

(3)「3つのフェーズ」
 「3つのフェーズ」の内容は以下のとおりです。
フェーズ1:現行法の下でのウェブ会議・電話会議等の運用(e法廷)
フェーズ2:新法に基づく弁論・争点整理等の運用(e法廷)
フェーズ3:オンラインでの申立て等の運用(e提出、e事件管理)
 既に第1フェーズは、2020年2月から開始され、2021年度中には、全国の裁判所の支部でも運用が開始される予定です。

裁判を受ける権利と裁判のIT化の関係
 (1)日本における裁判手続きの現状
裁判というと、多くの人が、双方の弁護士が裁判官の前で主張を戦わせているシーンをイメージするのではないでしょうか。
 実は、日本の裁判において、弁護士等の代理人は原則求められていません。
 裁判所の公開する統計資料をみると、実際に多くの事件が双方又は片方が、弁護士などの専門家を代理人として選任せずに、争われています。
つまり、多くの人が弁護士等の専門家を選任することなく、自ら裁判で主張し、争っているというわけです。
 現在、裁判所に行けば、訴訟の提起に必要な書類が用意されており、裁判所の職員が書き方をある程度教えてくれます。
 つまり、弁護士等を選任しなくても、基本的な読み書きや会話の能力があれば、訴訟を提起し、又は訴訟に応じることができます。
 このようにして、憲法32条の「裁判を受ける権利」は、保障されています。

(2)IT化の影響
ア IT化によるメリット
 IT化によるメリットは、いくつかありますが、訴訟を利用する一般の方からすると、訴訟の提起を含めた書類の提出がインターネットを経由して可能になることで、わざわざ平日の昼間に裁判所に行ったり、郵便局に行ったりする必要がなくなります。
 また、裁判手続き全体がIT化されることで、従来郵送や関係者の移動のために要していた時間が削減され、裁判にかかる期間が短くなることが予想されます。

イ IT化によるデメリット
 しかし、全体のIT化にはデメリットもあります。
 今このホームページをご覧になっている方々には、実感しがたいかもしれませんが、まだまだコンピュータやインターネットの利用をできない方も大勢います。
 また、日ごろコンピュータやインターネットを利用している方々でも、行政機関の提供するIT化されたサービスがうまく利用できず、かえって時間と手間がかかったという経験があるのではないでしょうか。

(3)今後の展開について
 現在、フェーズ2及び3に向けた法律の改正についての議論が進められています。
 その中で、最終的にIT化を義務化すること、すなわちIT化された手続きしか認めないのか、現在の手続きと併用する形でIT化を進めるのかについても議論がなされています。
 先に述べたように、IT化が義務付けられると様々な事情で本人訴訟を行っていた人々の多くが、IT化に対応した専門家を選任することが求められることになります。
 IT化については、「未来投資戦略2018(平成30年6月15日閣議決定)」が、その名の通り「投資」、すなわち経済政策上の観点から決定されたものであり、裁判のIT化に関する記載も「E)世界で一番企業が活動しやすい国の実現」の項で語られていることからも、IT化の主眼が企業活動の円滑化にあることは否定できません。
 しかし、「裁判を受ける権利」は憲法によって保障された権利であり、法治国家の大原則です。IT化によるメリットのみに着目せず、そのメリットを享受できず、取り残される人のないように慎重に議論を進めていく必要があります。
(弁護士 石井達也・2021年6月記)

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