京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
裁判官の身分保障(78~80条)

裁判官の身分保障の規定とその趣旨
 日本国憲法第78条は、「裁判官は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。裁判官の懲戒処分は、行政機関がこれを行うことができない」と定めています。
 また、最高裁判所及び下級裁判所の裁判官は相当額の報酬を受け、在任中減額できないないと定められています(日本国憲法第79条第6項・第80条第2項)。
 このような裁判官の身分保障の規定は、裁判官に不当な圧力が加わらないようにして公平な裁判を実現し、憲法と法律にのみ拘束され、裁判官が良心に従い独立して職権を行うことができる(第76条第3項)よう保障して、国民が享有する基本的人権の実現と司法権の独立を確保する目的で定められています。

最高裁判官の国民審査
 日本国憲法第79条第2項・第3項は、最高裁判所の裁判官について、衆議院選挙の際に行われる審査で投票者の多数が罷免を可とするときに罷免するという国民審査の制度を定めています。憲法によって身分保障が図られている最高裁判所の裁判官であっても、公務員の選定・罷免権を固有の権利として有する国民(日本国憲法第15条第1項)によって、その身分の適否が審査されるのです。
 2021年10月31日の衆議院議員選挙の際の国民審査では、11人の最高裁判所裁判官の国民審査が行われました。民法の夫婦同姓規定の合憲性が争われた訴訟で合憲、違憲の意見を述べた裁判官に対し、それぞれSNSで罷免運動が行われ、罷免を求める票は、合憲意見の4裁判官では7.27~7.85%、違憲意見の3裁判官では6.71~6.88%、訴訟の終了後に任命された4裁判官では5.59~6.24%でした。ネット社会の進展の中で、SNSによる運動が国民審査でも影響力を与えそうです。

裁判官訴追委員会と裁判官弾劾裁判所
 日本国憲法第78条・第64条を受けた裁判官弾劾法によって、衆議院では衆議院選挙後の国会で10名の裁判官訴追委員が選挙され、参議院では、10名の裁判官訴追委員が欠けたときに補欠選挙が行われ、合計20名の国会議員からなる裁判官訴追委員会が国会に設けられています。同様にして衆議院議員・参議院議員各7名の裁判員が選挙されて国会に裁判官弾劾裁判所が設けられています。

岡口基一裁判官に対する弾劾裁判所への訴追
 裁判官訴追委員会は、2021年6月16日、仙台高等裁判所の岡口基一裁判官を訴追し、訴追とともに職務停止がなされました。これまで、8裁判官に対し、9件の訴追がなされ、1948年訴追の2件が不罷免、それ以降の7件は全て罷免と判断されています。
 岡口裁判官に対する訴追では、訴追事実として、岡口裁判官が行ったSNSへの殺人事件被害者遺族の感情を傷つける文書の投稿・掲載及び民事訴訟の提起を不当評価する文書の投稿・掲載が摘示され、裁判官の威信を著しく失しなう非行に該当するとしています。岡口裁判官は、2022年3月2日の裁判期日で、岡口裁判官は、「私の表現行為に不適当なものがあり、深くお詫び申し上げる」と述べましたが、弁護団は罷免にはあたらないと主張しています。
 今後、2021年衆議院銀選挙後に選挙された衆議院議員の訴追委員と2022年参議院議員選挙後に補欠選挙された参議院議員で裁判員のもとで審理が継続します。
(弁護士 杉山潔志・2022年12月記)

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