京都南法律事務所 憲法を知ろう
憲法を知ろう
前文の権利性について(前文)

はじめに
 憲法の前文は、他の国の憲法と比べても長いので、引用しませんが、一度、読んでみてください。制定当時の息吹も感じられ、なかなか、格調高い文章だと思います。
 (参照HP)日本国憲法(e-Gov法令検索)

国民主権
 わが国の憲法の基本原理が「国民主権」、−すなわち、主権者は国民−であることは、誰もが否定できないことですが、条文上は、「この(象徴たる天皇の)地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」(1条)という形で間接的に規定されているだけで、正面からは掲げられていません。
 しかし、前文において、「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」という形で、宣言されており、前文の持つ意義の1つがここにあります。
 憲法を改正するとすれば、私は、1条に「国民主権」を正面から規定するべきであると思っています。

平和的生存権・判例の紹介
 東京大空襲(昭和20年3月10日未明、米軍による東京への大空襲のため、約10万人が死亡)の被害者らが、国に対して損害賠償を請求した裁判において、原告は、「平和のうちに生存する権利」などの前文の規定も根拠として主張しましたが、裁判所(東京地裁・H21・12・14判決)は、「上記の各規定の内容は、日本国が従うべき理念を定めた抽象的なものといわざるを得ない」として、具体的な権利性を否定しました。
 長沼ナイキ基地訴訟(防衛庁がミサイル発射基地を設置するために、保安林指定解除を申請し、解除の処分がされたのに対し、地元住民がその取り消しを求めて提訴)において、札幌地裁(S48・9・7判決)は、「前文にいう平和のうちに生存する権利は、裁判規範としての基本的人権であって、第3章(国民の権利及び義務)の各条項により具体化されている」とし、前文の権利性を認めました。
 なお、この事件の控訴審判決においては、その権利性(裁判規範性)は、否定されましたが、この地裁の考え方は、いまでも、下記の判決に受け継がれ、その生命力を維持しているものです。
自衛隊のイラク派遣差止訴訟控訴審判決(名古屋高裁・H20・4・17)・確定
 平和的生存権は、憲法上の法的な権利であり、裁判所に対し救済を求めることができる場合があるという意味において具体的権利性を有する。

(弁護士 中尾誠・2021年11月記)

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