井関佳法 Essay
時候のあいさつ
2018年5月
「連れ合いが買ってきた「おらおらでひとりいぐも」を読みました。若竹千佐子さんは63歳での芥川賞受賞だそうです。帯には、青春小説でなく玄冬小説なのだと書かれていました。郷里から飛び出して自由に生きてきたつもりだった桃子さんが、心底愛した夫を亡くして、これまで全く想像していなかった老いの世界に踏み込み戸惑いながら、自分のために生きるという、更にとらわれのない境地に気付きます。「自分主権」と表現されていました。青年の悩み、喜び、成長は、これまで沢山の小説に描かれてきました。高齢者のそれは、まだまだ未開拓なのかもしれません。玄冬小説の世界は、これから黄金期を迎えることは間違いありません。玄冬期の入り口に差しかかる私としても、大いに期待したいところです。ところで、年金を長期にわたって自動的に削減するマクロ経済スライドが始動をはじめています。玄冬期に、安心して悩み、喜び、成長するには、まず生活できなければなりません。年金制度をはじめとする社会保障がしっかりしていることがどうしても必要です。玄冬期の課題は山積していますが、新しい、開拓しがいがある課題であるように思います。