京都南法律事務所

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弁護士の “やましろ”探訪 〜古から現代へ〜

弘法大師の独鈷水(おこうずい)

杉山 潔志
楊谷寺の全景 ▲楊谷寺の全景
〔柳谷観音 楊谷寺(ようこくじ)〕
 京都府長岡京市奥海印寺から西へ続く柳谷道は、竹林の急斜面を通り、渓谷に沿い、山間を縫って西へと昇り、大阪府との府境に近い柳谷観音楊谷寺へと続いています。趣味のランニングで自宅から楊谷寺まで行ってみましたが、柳谷道の勾配には辟易させられました。
 柳谷観音楊谷寺は、清水寺を開山した第一世延鎮僧都が、大同元年(806年)に夢のお告げを聞いて清水寺から西山に入り、柳が生い茂る中に観音菩薩を見つけて堂宇を立てたのが開創と伝えられています。観音菩薩は、千手観音、十一面観音など様々な姿をとって衆生救済に顕(あらわ)れるといわれている菩薩で、人々の信仰を集めています。
楊谷寺本堂 ▲楊谷寺本堂
〔弘法大師の独鈷水伝説〕
 楊谷寺を開山した延鎮僧都は、清水寺に帰らなければならなくなりました。楊谷寺には、乙訓寺の別当であった弘法大師空海が、弘仁2年(811年)、楊谷寺を参詣した際に、親猿が子猿の眼を洗って眼が開いたのを見て、その水に祈祷を施して、眼病に悩む人のための霊水・独鈷水にしたとの伝説があり、古来から眼病平癒の祈願所として人々の厚い信仰を集め、治癒された人々によって支えられてきました。現在でも眼病に悩む人々の参拝が絶えないとのことです。そのため、弘法大師は、柳谷観音楊谷寺の第二世と仰がれています。
 柳谷観音楊谷寺には、古くは天皇家の参拝があり、豊臣秀吉の側室淀君も柳谷観音を信仰し、淀君が寄進した御厨子が伝えられています(柳谷観音のホームページより)。
楊谷寺弁財天 ▲楊谷寺弁財天
〔私たちの生活にとって重要な眼〕
 私たちは、周囲の状況を主に五感で感知しています。五感のうち、視覚は可視光線を感知することによって、光の明暗(光感覚)、色(色感覚)を感知するもので、広義には奥行知覚(立体視)、運動知覚(運動視)などをも包括する感覚です。視覚は、光の少ない夜間では見え辛い、背後に隠れているものは見えないなどの弱点もありますが、遠くのものを瞬時に感知することができるという特徴があります。人間が受け取っている情報量は、視覚から83%、聴覚から11%、嗅覚から3.5%であるという研究結果があり、私たちが圧倒的に視覚に依存して生活していることがわかります。眼疾治癒の霊験のある独鈷水が湧き出る柳谷観音が信仰を集める所以でしょう。
 交通事故や労働災害で視覚を喪失し、毀損することは重大な後遺障害と考えられています。たとえば、自賠責保険では、両眼が失明する後遺障害が残った場合には、第1級の後遺障害として、労働能力を100%喪失したものと評価され、3000万円の後遺障害保険金が支払われます(2015年11月現在)。このような制度も視覚の重要性を示しています。
楊谷寺眼力稲荷大明神 ▲楊谷寺眼力稲荷大明神
〔目・眼に関する慣用句〕
 視覚の重要性を反映したものか、目・眼を用いた慣用句は、耳や鼻よりも相当多いようです。例えば、「目が肥える」とは、「いいものを見馴れてその価値を見抜く力ができる。」という意味で使われ、「目に余る」は「数が多くて見渡すことができない。」という意味と「度を超してだまってみていられない。」という意味で使われます。また、「目を光らす」は、「注意・監視をおこたらない。」という意味です(以上、岩波書店「広辞苑」第四版より)。
楊谷寺独鈷水の水槽 ▲楊谷寺独鈷水の水槽
〔安全保障法制の実施に目を光らせる〕
 安倍内閣は、2014年7月1日、集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行い、2015年5月15日、安全保障一括法案を国会に提出しました。安倍内閣の国民への説明不足、国会審議での齟齬する答弁、世論に反する強行採決は、目に余るものでした。
 この法律は、憲法第9条に関する従来の政府解釈を超えたもので、自衛隊が海外で武力行使することに道を開くものです。京都弁護士会も、この法案が立憲主義、日本国憲法の平和主義に反するものであり、街頭での宣伝活動や円山野外音楽堂での大集会を行うなどして、学者の会やママの会、SEALDs関西の学生らと廃案に向けた取り組みを行いましたが、政府与党は9月19日、強行採決によって法案を「成立」させました。
 法案が強行成立させられた今、自衛隊の海外派兵や後方支援など法律の実施によって憲法が禁止する武力行使が行われないよう目を配り、目を光らせ、立憲主義を踏みにじった政治家らに目に物を見せて、立憲主義を回復することが必要です。
  • 楊谷寺山門石段東側の表示版 ▲楊谷寺山門石段東側の表示版
  • 楊谷寺独鈷水への入口 ▲楊谷寺独鈷水への入口
  • 竹林の中を通る柳谷道 ▲竹林の中を通る柳谷道
2015年11月

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