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弁護士の “やましろ”探訪 〜古から現代へ〜

神明神社と茶店営業

杉山 潔志
神明皇大神宮鳥居 ▲ 神明皇大神宮鳥居
〔山城国久世郡栗隈郷〕
 古代の山城国久世郡十二郷の1つに栗隈郷がありました。栗隈郷の範囲は、現在の京都府宇治市の大久保・広野付近とこれに隣接する城陽市の一部と推定されています。日本書記には、仁徳朝と推古朝が大溝(おおうなで)(灌漑用水路)を開削したと記され、古くから農地開発が進められていたことが窺えます。平安時代には栗隈野として遊猟地とされ(日本後紀)、現在の京都府宇治市神明宮西を通る旧奈良街道(現京都府道宇治・淀線)の東側の丘陵は栗隈山と呼ばれていたようです。
〔神明皇大神宮〕
 栗隈山と呼ばれた丘陵には、神明皇大神宮(神明神社)が建立されています。神社の由緒書によると、白鳳3年(674年)に天武天皇の詔により栗子(栗隈)山に神殿が造営され市杵嶋比売命(いちきしまひめのみこと)を祭神として神明神社と称されたのが起源とされ、桓武天皇が平安京に遷都し、都の巽(東南)のこの地に伊勢皇大神宮を勧請し、宇治と号して行幸したそうです。
 境内には、天照大神(あまてらすおおみかみ)など三柱を祀る内宮、豊受大神(とようけのおおかみ)など三柱を祀る外宮などの社や大山崎の合戦で敗れた明智光秀が隠れたと伝えられる藻隠池があります。
神明皇大神宮・藻隠井戸跡 ▲ 神明皇大神宮・藻隠井戸跡
〔狂言:今神明と栗隈神明〕
 中世になると庶民も神明神社に参詣するようになり、参詣者に茶をふるまう商いが始められたようです。その様子が「今神明(いましんめい)」や「栗隈神明(くりこのしんめい)」と題する狂言で演じられてきました。「栗隈神明」は明治以後に「今神明」をもとに改作された脇狂言とのことです(新編日本古典文学全集60「栗隈神明」、山本晶子「馬瀬狂言資料の紹介(11)」学苑・日本文学紀要第939号)。
 「今神明」は伝えられている台本によって細部に違いがありますが、概ね、京で商売がうまくいかない夫婦が神明が飛んできたという宇治の神明社で茶店を始めたものの、参詣の客が「点てた茶がまずい」などと言って代金を支払わずに他の茶店に行こうと言い出し、代金請求をした店主を突き倒したので、夫婦は慰めあって都へ戻るという内容です。
 これに対し、「栗隈神明」は、伏見に住む松の太郎夫婦が、神明社の祭礼に茶店を出した際、参詣者から神明社の由来を尋ねられ、「伊勢国守が栗隈山を通った時に、現れた老翁が『伊勢の内宮・外宮の神を祭れば天下泰平五穀成就疑いなし』と話して消えたことから、延喜4年(904年)に二柱を遷座し、栗隈改め神明山と号するようになった」と話して囃子物を見せたという内容です。
通園茶屋(宇治橋東詰) ▲ 通園茶屋(宇治橋東詰)
〔室町時代の茶〕
 これらの狂言から、室町時代には神明社の神事の日に抹茶を点てる道具を搭載した荷茶屋などの露店が境内に出され、庶民に宇治の若葉=新茶を販売していたと推測されます。
 茶は、奈良〜平安時代に中国からもたらされましたが、製法も飲み方も現在とは異なっており、喫茶の風習は廃れました。鎌倉時代になって臨済宗開祖・栄西が中国から茶の種を持ち帰り、華厳宗の僧・明恵が京都・栂尾の高山寺で栽培を始め、宇治の地に移植させました。明恵は馬に乗ったまま畑に入り、蹄の跡の位置に茶の木を植えるように教えたという伝説があり、黄檗山萬福寺の総門前には「栂山の尾上の茶の木分け植えて迹ぞ生ふべし駒の足影」と刻まれている駒蹄影園跡碑が建立されています。これが現在に伝わる茶です。宇治橋東詰にある通圓茶屋は、永暦元年(1160年)の創業で、宇治橋の橋守をしながら、道行く人々に茶をふるまってきました(通圓のホームページ)。
宇治市五ケ庄野添の茶畑明板 ▲ 宇治市五ケ庄野添の茶畑明板
〔現在の露店や模擬店に対する規制〕
 現代では、飲食店の営業を行うには都道府県知事(保健所を設置する政令指定都市では市長)の許可が必要です(食品衛生法)。仮設店舗で臨時または季節的に営業する場合でも営業許可が必要です。なお、テイクアウトやデリバリーなど食品販売形態の多様化や食中毒の発生などを受け、改正された食品衛生法が2021年6月1日に施行さました。
 町内会や自治会などが行う祭りやイベント、神社仏閣が行う縁日祭礼など社会通念上営業と判断されない模擬店などでの調理・加工した食品を提供する場合には、食品衛生責任者を決めて保健所へ届け出ることを要します。酒類の販売には、別途酒税法による規制があります。
 神明神社の境内に来ると、この神社でくり広げられた中世の人々の生活や活気、悲哀が目に浮かぶようです。

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  • 駒蹄影園跡碑 ▲ 駒蹄影園跡碑
  • 駒蹄影園跡碑説明板 ▲ 駒蹄影園跡碑説明板
  • 通園茶屋説明板 ▲ 通園茶屋説明板
  • 神明皇大神宮由緒書 ▲ 神明皇大神宮由緒書
2024年5月

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