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弁護士の “やましろ”探訪 〜古から現代へ〜

酒処・伏見

杉山 潔志
鳥せい本店と月の蔵人 ▲ 鳥せい本店と月の蔵人
〔ユネスコ無形文化遺産に登録された「伝統的酒造り」〕
 2024年12月、日本の「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。「伝統的酒造り」は、麹を用いてでんぷんを糖化した醪(もろみ)を原料とする酒作りです。日本酒、焼酎、泡盛、みりんなどがこのような方法を用いて造られています。
〔酒蔵が混在する伏見の町での酒作り〕
 伏見は、住居や商業施設の中に酒蔵が混在する町並みとなっており、多くの外国人観光客も訪れています。酒造業者は、無形文化遺産への登録を日本酒の消費拡大へつなげようとガイドツアーや利き酒などで日本酒の魅力を発信していますが、伝統的酒造り技術の承継への危機感も抱いているそうです。
 国税局令和4酒造年度分調査によると、全国の清酒の20度換算生成量は1141製造場318,254kL(前年度比5.8%増)で、都道府県では多い順に兵庫県57製造場90,276kL(うち灘五郷19製造場64,678kL)、京都府38製造場50,866kL(うち伏見21製造場50,158kL)、新潟県84製造場28,727kLでした
月桂冠大倉記念館 ▲ 月桂冠大倉記念館
〔京都、伏見における江戸時代の酒造り〕
 秀吉の伏見城築城で城下町となった伏見は、江戸時代には水陸の交通の要衝として繁栄し、酒造業者も進出しました。元禄年間の作と思われる「洛中洛外酒や数並び造米高」には、京都上京・下京・東西本願寺の寺内町の酒屋数551軒、同洛外町続・在々102軒、先年酒造米高13万2410石と記されています。
 しかし、奈良で諸白造り(麹米と掛米に精白米使用)、伊丹で柱焼酎(上槽前に焼酎添加)、灘で十水仕込み(米水同量での仕込み)や水車精米などの新技術が開発されたのに比べ、京都では新技術の開発・導入が遅れたようで、生産高が減少しました。京都市内では他所生産酒を締め出す「抜け酒禁止布告」が出されましたが、「抜け酒」や伊丹領主近衛家の「年貢酒」などが流通しました(吉田元「江戸時代の京都酒造業(1)・(2)」醸協2004年、同「江戸の酒」岩波現代文庫2016年)。幕府は、食糧供給や米価対策として、飢饉の時には減醸などの制限令を出し、豊作の際には勝手造り令などの奨励令を出して酒造統制を行いました。
宇治川派流と月桂冠 ▲ 宇治川派流と月桂冠
〔明治以降の伏見における酒造り〕
 鳥羽伏見の戦いで被害を受けた伏見の町では、明治維新後酒造業が集積し、伏水と呼ばれる中硬水を用いた酒造りが発展しました。月桂冠は業界初の大倉酒造研究所を設立して伝統的製法に科学技術を導入し、防腐剤が入らないびん詰酒を販売しました。伏見酒は、全国清酒品評会や全国新酒鑑評会で優秀な成績を収め、生産量を増やして全国に販売されるようになりました(月桂冠のホームページより)。
〔酒類製造販売と酒税法〕
 明治政府は酒造を免許制にして酒税法制を整えました。日清戦争後の軍備拡張等のための増税で、酒税は明治32年(1899年)に地租を抜いて国税の税収第1位になり、明治37年に地租に逆転されたものの明治42年以降大正7年(1918年)に所得税に抜かれるまで国税最大の税収でした。日本では古来から豊穣祈願の供え物や自家消費のために農家などでどぶろくが作られていましたが、明治32年、どぶろくなどの自家用酒の製造が禁止され、戦後の酒税法に承継されました。
京姫酒造 ▲ 京姫酒造
〔どぶろく裁判〕
 どぶろくは酒税法では「その他の醸造酒」に分類され、年間製造量が6kL以上でないと製造免許を受けられません(清酒は年間60kL)。酒造自由化を唱え「ドブロクをつくろう」(1981年・農文協)を著した前田俊彦氏は、無免許造酒罪(清酒約37L等)で起訴され、上告審まで争いましたが、平成元年12月14日、最高裁判所は、免許制の酒税法が憲法第31条(罪刑法定主義)、第13条(幸福追求権)に違反しないとして、罰金30万円の判決を維持しました。
 他方、平成14年に成立・施行の構造改革特別区域法は酒税法の特例を設け、京都府内には「酒呑童子の里大江」など5か所のどぶろく特区が認定されています。
〔伏見酒の発展を願って〕
 京都市は、2013年1月、清酒普及の努力義務を規定した「京都市清酒の普及の促進に関する条例」を施行しましたが、日本酒は、海外では需要が増えているものの、国内消費は減少傾向です。
 昭和3年に奈良電鉄(現、近鉄京都線)の陸軍工兵隊練兵場横断部分の地下化計画を高架に変更させた伏見酒造組合は、京都府酒造組合連合会とともに、大深度地下トンネル工事を伴う北陸新幹線の小浜・京都ルート計画に対し、地下水に影響が出ないルートとするよう求める要望書を京都府・京都市に提出しています。
 清酒をいただいて文化を味わうとともに、おいしい清酒が造られる環境を守っていきたいものです。

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  • 濠川と北川本家 ▲ 濠川と北川本家
  • 松本酒造 ▲ 松本酒造
  • おきな屋 ▲ おきな屋
  • 黄桜 ▲ 黄桜
2026年4月

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