5 離婚の際に決めること
離婚の話し合いの際に決めるべきことは、大きく分けて下記の2つです。
- 未成年の子どものこと
- 家などの財産やお金のこと
1.未成年の子どもについて説明します
- ●親権者の決定
- 子どもが未成年者の場合は、婚姻中は両親が共同親権者ですが、離婚の際にはどちらか一方を親権者と定める必要があります。
親権者は、子どもが成人するまでの法定代理人です。成人すれば親権者ではなくなります。監護・教育の権利義務、居所指定権、懲戒権、職業許可権、財産管理権などがあります。父母の双方が親権者は自分の方が適任だ、と争った場合には、離婚訴訟において、裁判所の調査官が子どもの生活状況などを調査します。子どもは親の所有物ではないので、親権者は子どもの最善の利益、幸せの観点から決めるべきものです。 - ●養育費
- 【金額】
- 子どもの養育費については、双方の税込年収を基準にし、子どもの数、年齢等に応じて算定されます。「養育費の相場はいくらか」と尋ねる方が多いのですが、子ども一人3~4万円というのはあくまで「最頻値」であり、双方の経済力の差から計算すれば、一人10万円、20万円となるケースもあり、また、計算上はゼロになるケースもあります。裁判所のホームページに「養育費・婚姻費用算定表」が公表されており、裁判所はこれを基準としています。
- 【支払期間など】
- 原則は20歳に達する月までですが、高校卒業まで、あるいは大学卒業まで、という合意をするケースもあります。また進学時の特別費用については別途支払う、という合意をするケースもあります。
- 【増額請求・減額請求】
- 養育費は、子どもと同居しない親であっても、子どもは同レベルの生活をする権利がある、という考えに基づき認められるものです。義務者の月々の収入が増加すれば、養育費増額請求が可能ですし、逆に減少すれば、義務者から養育費減額請求がされることもあります。当事者で協議できなければ、調停を申し立て、調停不成立であれば審判に移行します。いったん決まった養育費を変更するには、まず変更通知をし、合意ができなければ、調停申し立てをする必要があります。
- 【履行確保】
- 調停や審判、判決、公正証書等があれば、不動産や給与などへの強制執行が可能です。
- ●面接交渉
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親権・監護権をもたない親が子どもに面会等の交流をすることは、一般的には、親としての責任を自覚させ、子どもの健全な成長にとっても有益だ、として認められています。基本は「子の福祉」のためですので、子の意思、子の負担、現在の生活環境への影響などを考慮して決めるべきものです。子が完全に拒否したり、DVがある場合には認められないケースもあります。
面接交渉の時期・回数については、1ヶ月または1年に何回、学校の長期休暇に何回と決めて、具体的な日時、場所などは当事者がその都度協議して決めるとすることが多いです。
- 親権者と監護者
- 実際に子どもを育てる者を監護者と言い、親権者と別に定めることも可能です。しかし、どちらも子どもの利益を考えて決定されるので、一致するのが通常であり望ましいのです。なお、親権者や監護者にならなくても、親としての権利義務、たとえば養育費支払義務、未成年者の婚姻の同意権や相続権があります。
- 親権者の決定
- 専門職につく父の暴力・暴言等により、母が家を出て生活保護を受けているケースで、母親が親権者として適任である、という判断が出されたことがあります。経済状況は養育費や母子福祉も含めて判断されます。
- 別居後、ないし離婚後に生まれた子ども
- 第三者の子どもでも元夫の籍に入る場合があります。早めに法律相談を受けられる方がよいでしょう。
2.家などの財産やお金のこと
- ●財産分与
- 財産分与には、1.夫婦共同財産の清算、2.経済的弱者への離婚後の扶養、3.離婚慰謝料の賠償、4.過去の婚姻費用の分担の4つの要素が含まれます。
夫婦が婚姻中に協力して築いてきた共同財産は、名義を問わず、すべて対象となります。しかし、一方が婚姻前から所有していた財産や相続等により取得した財産は「特有財産」ですので、財産分与の対象にはなりません。 - 【退職金】
- 賃金の後払い的なものですから、財産分与の対象になります。将来の退職金は、不確定要素はありますが、支払いの蓋然性が高い場合は、清算の対象に含められます。将来退職金が支給されたときに、同居期間の寄与割合に応じた一定額の支払いを命ずるものや、現在の評価に引き直して現時点での支払いを命ずるものがあります。
- 【年金】
- 最近の裁判例では、妻の死亡時まで双方の年金の差額の一定割合の支払いを命じるものがでています。2007年4月以降の離婚については、厚生年金部分の受給権自体の年金分割が認められます。
- 【マイナスの財産分与】
- 不動産の時価から住宅ローン債務を控除した残額がプラスの場合は、このプラス部分について財産分与の対象とされますが、マイナスの場合、いわゆるオーバーローンの場合については、困難な問題があります。最近の裁判所の考え方は、「マイナスの財産分与は認めない」という方向です。
- 【財産分与の割合】
- 具体的寄与度により定められますが、夫の職業労働と妻の家事労働(無償労働)の比較は単純ではありません。従って、夫婦の平等、公平の見地から、原則として2分の1として、個別事情を加味して修正されるという方法がとられます。
- 【請求手続】
- 当事者の協議により決めますが、一致できないときは、家裁での手続きとなります。財産分与の話し合いができない場合、先に離婚するケースと、すべて決まるまで離婚しないケースがあります。先に離婚している場合は、財産分与の裁判所での手続きは、離婚の時から2年以内に行う必要がありますのでご注意ください。
- ●慰謝料
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離婚による慰謝料は、婚姻破綻に至った原因をつくった有責配偶者に対して、その不法行為により被った精神的損害に対する賠償です。不貞行為、暴力・暴言などを理由とする場合があります。婚姻期間や、有責性、相手方の資力が考慮されます。
なお、不貞行為の相手方に対する慰謝料請求は、その前に婚姻破綻していない限り可能です。しかし、有責配偶者とは共同不法行為の関係ですので、離婚の際に元配偶者から相当な財産分与・慰謝料を取得している場合には、認められない場合があります。 - ●年金分割
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婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割することが出来る制度です。「合意分割」と「3号分割」があります。
合意分割は、当事者間の合意または裁判手続きにより按分割合を決めます。合意できないときは一方の求めにより裁判所が定めます。基本は50%です。
3号分割は、婚姻期間中に2008年4月1日以降の国民年金の第3号被保険者期間がある場合、その方の請求によりその期間の相手方の厚生年金記録を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。
どちらも,請求期限は原則として離婚した日の翌日から起算して2年以内です。
どの場合でも、年金事務所への届出をしなければ年金分割はされませんから、離婚から2年以内の届出を忘れないようにしてください。
1 | 経過表の作成と証拠 離婚原因 |
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2 | 離婚の方式 |
3 | 相手方から離婚を要求されたら |
4 | 別居中の生活費の請求 |
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